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(9)全開ガール [ドラマレビュー]

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『 全開ガール 』
第9回
( 2011年 フジテレビ 公式サイト
演出:川村泰祐 脚本:吉田智子 出演:新垣結衣、錦戸亮、平山浩行、蓮佛美沙子、薬師丸ひろ子

鮎川若葉(新垣結衣)が信じてきた価値観とは、所詮は砂上の楼閣、世間知らずの女の子が頭でかっちに考えた幻想だったのかもしれません。若葉のこれまでの生き方のバックボーンとなってきた価値観のうち、若葉の生い立ちの貧しさを根拠とする「お金」に対する価値観は、前回の父親をめぐるエピソードを通じて若葉が幼少期の「精神的な豊かさ」を思い出すことによって、完全に揺らいでしまったと言っていいでしょう。それに続いて今回は、彼女が絶対的なものだと信じてきたもうひとつの価値観、すなわち「法律」対する考え方がおもちゃの特許をめぐるエピソードによって根本から揺らいでいきます。

 「でも、法律って何なんですかね。子供なら簡単に答えを出すと思うんです。どっちが悪いか。
 オレにとっての法律って、ばあちゃんに教わったことなんですよ。
 嘘をついてはいけません。人をいじめてはいけません。それって間違ってますかね」

一番大切なことは、六法全書には書いていなかった・・・困っている人たちの前に無力な法律、親しい人を救うことができない法律・・・この「学校では教えてくれない事実」は、弁護士になるために法律だけを勉強してきた若葉にとって、法律を熟知しているがゆえになおさら大きな痛みを伴ってその心に突き刺さったに違いありません。さらにこれは彼女の生き方と彼女が描いてきた未来を根底から覆す事実でした。

この不条理を打開しようとしたのが、若葉よりもむしろ「法律の限界」を痛感してきた先輩弁護士・九条実夏(青山倫子)であり、さらには園長先生(竹内力)の要望を聞き入れた桜川昇子(薬師丸ひろ子)であり、この二人が用いた手段とは言ってみれは法律とは別次元にある「情」だったわけです。ここで言う「情」とは、山田草太(錦戸亮)がその生き方によって体現し、若葉に対して訴え続けてきたものと言ってもいいし、その一方で、法律によって人生を切り開いてきたリアリスト・新堂響一(平山浩行)にとっては一笑に伏すような性質を持っていたはずです。若葉は最終的に「情に生きる人生」と「法律に生きる人生」のどちらを選択するのでしょうか。もう答えは出ているはずです。そのことがよくわかるのが桜川昇子にお礼を言い続ける若葉の姿でした。ここに謝罪したいときには謝罪する、お礼を言いたいときにはお礼を言うという草太の生き方が重なります。

次のシーンで昇子にこの件の真意を問うた若葉は、あっさりと草太の影響を認めるわけですが、このとき園長先生が初恋の人だったことを告白した昇子が若葉にかけた言葉とは、結局、彼女が若葉とまったく同じ気持ちでこの件に対処したということを認めるものであり、同時に若葉に上述のどちらの生き方を選択して欲しいかを示唆するものでした。この昇子の言葉が園長先生の言葉と結びついたとき、若葉の迷いは一気に吹っ切れるのです。

 「後悔するとしたら、そうねぇ、夢のために自分の想いをふいにしたことかしら。溜め込んだ想いっていうのは厄介でね。
きちんとケリをつけて吐き出さないと、一生自分に問い続けることになるのよ。もしあの時って・・・」
 「大切なものは目に見えないと言いますが、手探りでも、這いつくばってでも、あの想いを確かめるべきでした」

ここからはこれ以降のシーン、すなわちラストシーンを演出的側面から掘り下げてみることにします。

今週は若葉と草太が自分の気持ちをはっきりと自覚している中で、それぞれがその想いを相手に伝えようとする過程が描かれました。草太が冒頭から自分の想いを若葉に伝えるチャンスを窺っている一方で、若葉の気持ちは草太への想いと自分の将来的なステータス(≒新堂への思い)のはざ間で揺れ動いており、川村泰祐監督は、この綱渡りをしているかのような微妙な心情を若葉の一瞬の表情を切り取ることで表現しようとしていたような気がしています。

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今週の若葉は、草太と相対するとき、これまで見せたことがなかった「無防備な表情」を複数回見せていて、次の瞬間すぐに我に返るという描写がいくつもありました。その最初のシーンが冒頭の保育園のシーンで、前回のラストシーン以来初めて顔を合わせた草太を見つめる目は「恋する女の子」そのものだったと言っていいでしょう。さらに弁護士事務所に出前に来た草太が何か言おうとしているとき、その言葉を待っている若葉の表情は期待感を隠さないものだったし、ウェディングドレスを試着したときに草太と思いがけず顔を合わせた瞬間に見せた表情なども、恋に向き合うときの戸惑いや苦しさといったものを隠せずにおり、憂いのようなものを含んだ表情でした。第7話から第8話にかけて描かれたエピソードによって草太に対する若葉の気持ちは、もう退っ引きならないものに変わっていることが伝わってきます。また、これに対して新堂に見せる若葉の表情は、笑顔であってもどこか空虚なものを秘めていた点も見逃せません。この2種類の表情で見せる若葉の微妙な心情はいよいよラストシーンにつながっていくのです。

ラストシーンでは、若葉の表情を草太の肩なめで捉えるショットと真横から捉えるショットの2パターンで押さえ、草太の思いがけない返事に対する若葉のリアクションとその表情の変遷を余すところなく見せていきます。若葉にとっての「人生初めての告白」が作り出す雰囲気と緊張感が若葉の表情に浮かんでおり、上述の草太にだけ見せてきた若葉の表情がここに効果的に結実してきます。そして極め付けが、この印象的なラストカットがもたらす深い余韻です。監督がこの「瞬間」を撮るために相当粘っただろうことが想像できる素晴らしいカットでした。

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これがわずか5秒足らずのカットなんですけど、絶妙な長さだなと感心してしまいました。言うまでもなく監督にとって、視聴者に対してもっとも印象付けたい絵がラストカットであり、印象付けると言う意味では当然長く見せるという方法もあるわけです。でも川村監督がこのラストカットで見せたのは若葉が涙を落とす「瞬間」のみでした。草太に対する若葉の想いが行き着いた先にあったのがこの涙であり、私はエンドロールの余韻の中で、本編中若葉が何度も見せた「初めての恋に向き合う女の子の表情」を思い出さずにはいられませんでした。川村監督が表現したものは「瞬間の余韻」とでも言うべきものでした。そしてエンドロール左にあるワイプ上のラストカットもまたこの若葉の表情だったところがさらに心憎い演出です。やっぱりもう一度見せるかぁ・・・ブラボーです。以前『ハナミズキ』(2010年 東宝)のレビューで触れたことがありますが、女優さんの魅力的な表情を引き出して切り取るのも監督の重要な仕事です。

さて、前回言及した桜川昇子が若葉の決断を後押しするという描写が早くも今週盛り込まれてしまったので、2週残して二人を最終的に結びつける要素が不確定になってしまいましたが、いづれにしてもその点をどのように見せて盛り上げてくれるのかとても楽しみです。このレビューでほとんど毎回のように取り上げてきたように、実はこれまで若葉と草太の気持ちを導いてきたのは子供たちですから、やはりビー太郎(高木星来)と日向(谷花音)が重要な役割を果たしていくような気がしています。

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