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(7)全開ガール [ドラマレビュー]

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『 全開ガール 』
第7回
( 2011年 フジテレビ 公式サイト
演出:川村泰祐 脚本:吉田智子 出演:新垣結衣、錦戸亮、平山浩行、蓮佛美沙子、薬師丸ひろ子

間違ってたら「ごめんなさい」なんですけど、吉田智子さんは今回主人公二人の気持ちを近づける過程に存在したエピソードを、先日テレビ放送された映画『ブタがいた教室』(2008年)から着想を得て執筆したのではないかと推察しています。それは「模倣」という意味ではなくて、あの映画が表現し損なったこと、あるいはあえて表現することを避けたことを冷静かつ正確に捉えて再構築し、それをこのドラマに盛り込もうとしたということです。

ツイッターでもつぶやいたんですが、私は『ブタがいた教室』という映画は実話というエクスキューズの元、この物語を無理やり美談に仕立て上げようとして、物事の本質を正確に伝えることに失敗しているような気がしていました。主人公の教師がクラスでブタを飼おうと言い出した最初の目的が実は早々に放棄されているところが大変重要なはずで、生徒たち(小学生)ががんばってディベートをしてブタをどう処置するか真剣に考えましたといえば聞こえはいいですけど、そもそもこの指導法は失敗だったんだということに言及しなかったら、新任教師の「実験」とその「失敗」に付き合わされて生じた生徒たちの心の傷はどうなってしまうのでしょうか。主人公が自らの失敗を反省する描写が一切ないばかりか、生徒たちが自ら決めたんだからこれで良かったんだと言わんばかりの主人公のしたり顔が印象付けられているのですから、この映画は私にはどうやっても受け入れられないものでした。

本作において今回描かれたビー太郎が「ひよこ」を育てようとするエピソードは、あの映画に対する私の不完全燃焼を完全に払拭するような内容であり、個人的には「拍手もの」とでも言うべき痛快なものでした。私が引き込まれてしまったのは鮎川若葉(新垣結衣)が、ひよこを見て毅然と言い放ったこの言葉からです。

 「ひよこはペットではなく、家畜です」

これこそがあの映画の主人公が「ひよこ」を「ブタ」に置き換えて生徒たちに最初に言うべき言葉だったのです。

 「家畜を育てるということは、愛情を注ぐためではなく、生きる糧にするためです」

そして、これこそがあの映画の主人公が当初、生徒たちに教えようと考えていたことに他なりません。ちょっと飛躍しますが、よくムチ打たれて走らされる競走馬はかわいそうだという意見がありますが、サラブレッドとは競馬(根源的には戦争)のために人間が数百年かけて作り出した品種で、競馬という文化を有する人間によってその繁栄が約束されているのです。つまり競馬場で走って初めて価値が生まれるのがサラブレッドであり、競馬がなくなったら絶滅するしかないのがサラブレッドなのです。これは鶏や豚も同じことで、家畜化された品種というものは人に食されて初めて価値が生まれるのであって、それをかわいそうなどと考えることは人間の食文化、もっと言えば人間の存在を否定するものです。そのことを生徒たちに教えずに、ただ「ブタを飼って食べよう」などとヘラヘラと思いつきのように言い出すのは無責任以外の何者でもないのです。仮に若葉が先生だったら生徒たちに素晴らしい指導を施したに違いありません。また、園長先生(竹内力)が子供たちに食事前の「いただきます」の意味を教えるシーンがしっかりと盛り込まれていたことも付け加えておきます。

今回のレビューは本作のストーリーの本筋とはちょっとかけ離れたことを書いているようにも見えるかもしれませんが、『ブタがいた教室』という映画に対するもうひとつの突っ込んだアンチテーゼが含まれており、終盤そのことが山田草太(錦戸亮)の苦悩として描かれていたことも見逃せません。

あの映画の主人公に決定的に欠落していた教師としての資質とは、自らが「生徒に教える」あるいは「生徒を導く」存在であるという意識の低さです。彼は飼えなくなったブタをどう処置するかという議論を生徒たちに丸投げしており、そのことを生徒たちの自主性を尊重したというきれい事で認識しているのだから、教師失格と言ってしまってもいいでしょう。テレビ東京のドラマ『鈴木先生』では「中学生に高等な議論ができるはずがない」という一般的認識が描かれていましたが、この映画が描いているのは「小学生の議論」なのです。先生が生徒を導くことを放棄してしまったら、小学校という教育機関は成立しないのです。私が腹立たしいと思っているのは、この映画の主人公が本編を通じて、自らの指導の失敗と自らの教師としての資質の欠陥に気が付かなかったことで、この映画の作り手はこの物語を(見せかけの)美談にする目的で、それを揺るがす要素を意図的に排除したのです。

まわりくどくなりました。勘のいい方に気が付いていただけていたら嬉しいのですが、つまり終盤に露呈した草太の苦悩とは、あの映画の主人公に欠落していた資質そのものだということです。あの映画の主人公が苦悩するどころか完全に無自覚だった「子供たちを導く教育者」であることの重みに対して、同じく教育者たる一人の子の親である草太は、痛々しいほどに苦悩し、自分を責めたのです。

 「あなたは、ビー太郎に選択させることが正しいことだったと思いますか?」
「もちろん・・・個人の意思を尊重した正しい・・・」

このときの若葉の答えとは、いわばあの映画の主人公が信じて疑わなかったものでしょう。

 「あれは、オレの打算なんです・・・」「5歳の子供に正しい選択なんてできません・・・」

草太は、自分がビー太郎のために最良の選択をする(=子供を導く)ことをいつの間にか放棄してしまったんだということを自覚し、親でありながらビー太郎の気持ちを何ひとつ理解していなかったという事実に打ちのめされるのです。そして若葉が、このとき草太が自分を責めるために用いた「理屈」を咀嚼するよりも前に草太を抱きしめるという行動に出たのは、前回も触れた若葉の魅力そのものであり、この瞬間に草太を抱きしめてあげたいと思ったその気持ちを素直に具現化したものです。さらに続く若葉の言葉は、草太がその苦悩の中で物事を複雑化してしまったものをすっかり単純化してしまう素晴らしいものでした。

 「私も、母親の顔は覚えていません。ぬくもりの記憶もありません。
 もし私が同じ選択を迫られたら、やっぱりビー太郎君と同じ選択をしていた気がします。
 でも、何が正しかったかなんて誰にもわかりません。わかるのは、結果だけです。
 ビー太郎君をあなたが幸せにすればいい。それだけです」

この言葉が草太の心の重圧をいっぺんに吹き飛ばし、彼の気持ちを優しく解き放っていったのは言うまでもありません。この瞬間に草太もまた若葉を抱きしめるのはごく自然なものだし、二人の心がいささかの掛け違いもなく真正面から初めてつながった瞬間がここなのです。「この瞬間」は、川村泰祐監督の絶妙な演出で印象付けられていたということも付け加えておかなければなりません。あのエンディングテーマのイントロの使い方は第4話と同様、素晴らしい仕事だったと思います。また、この曲のイントロは30秒余あって、毎回ボーカルが導入するところでエンドロールへ突入するのですが、この本編にかかるおよそ30秒の使い方も実にうまい。

 (1)(2)
(3)
(4)
(5)
(6)(7)(8)
着信する若葉の携帯電話#
若葉を待つ新堂の堅い表情#
若葉に電話する桜川昇子の心配げな表情#
若葉の指に光るエンゲージリング#
抱きしめあう二人の表情#
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この瞬間とは、もちろん若葉と草太にとってひとつの到達点とでも言うべきものですが、当然これが二人にとっての終着点というわけではありません。二人の間に立ちはだかる「事情」を表現しているのが(1)~(5)のカットで、これが、この瞬間にそんな事情とは無縁の中で抱きしめあう二人の表情を捉えたラストカット(6)~(8)へとつながっていきます。我々はこのおよそ30秒間で表現された二人を取り巻く事情から二人の未来を想像し、ラストカットをもってそんな事情をものともせず、二人がこのまま結ばれて欲しいという気持ちに駆り立てられるのです。以前にもどこかに書きましたが、連続ドラマは次回への「つなぎ」がとても重要で、視聴者の想像力を刺激するような終わり方が最良だと思います。今回のラストはその役割を見事に表現した素晴らしい演出だったと思います。

今回のレビューは半分映画レビューになってしまい、『ブタがいた教室』をご覧になられていない方にはなんだかよくわからない話で申し訳なかったのですが、冒頭で述べたことにはかなりの確信があって、脚本家の仕事とはすごいものだと改めて感心しています。これだけ映画やテレビ文化が成熟してしまうと、まったくのゼロから新しいエピソードを生み出すことは至難の業であり、当然その着想は同じ(あるいは類似した)メディアから得るのが簡単で最良の手段になると思います。しかし、単なる模倣やアレンジではなく、こういう形で、とある映画のストーリー上の欠陥を補い、高尚なものに昇華させてしまう仕事を目の当たりにしてしまったら感動すらしてしまいます。もっとも以上のことは私の「推察」であることを再度確認しておきます。

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