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(6)全開ガール [ドラマレビュー]

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『 全開ガール 』
第6回
( 2011年 フジテレビ 公式サイト
演出:関野宗紀 脚本:吉田智子 出演:新垣結衣、錦戸亮

前回に引き続いて今回も鮎川若葉(新垣結衣)が山田草太(錦戸亮)に対する自分の気持ちを自覚していく過程が描かれ、実際、若葉は草太に想いを告白しようとするところまで一気に進展しましたが、実は今回、若葉の価値観をめぐってもうひとつの重要な要素が描かれていたことも見逃せません。

現在の若葉の在り様(よう)を決定付けたものが彼女の貧しい生い立ちであることは、幼少時代の回想シーンによってこれまでも再三表現されてきました。若葉がいかなる努力も惜しまずに司法試験に一発合格し、現在の地位を勝ち取ったのは、幼少時代から続く貧しい生活を脱するためで、その手を抜くことを知らない生き方はさらなるステータスを手に入れるためのパートナー選びに移行しても失われることはありません。したがって、何事に対しても全開な若葉の生き方とは、自分自身の生い立ちのうち「貧しさ」を否定することから始まっており、この点は『やまとなでしこ』の主人公・神野桜子と変わりはありません。ただし、若葉と桜子にはひとつだけ決定的に異なる点があります。若葉は桜子と違って最初から自分の貧しい生い立ちを周囲に対してまったく隠すことはなかったし、むしろだからこそ今の自分があるというような自負を堂々と保持しており、若葉は一見して自分の過去を否定しているように見えますが、実は幼少期の記憶を愛おしく思っている節すら見え隠れしています。それは回想シーンで登場する幼少期の若葉(柳町夏花)が貧しいながらもとても生き生きとした少女として描かれていることとも関係してくるでしょう。今回で言えば、歌を口ずさみながら自分の服を繕う幼少期の若葉と魔女の衣装を繕うときの楽しそうな若葉の姿が重なりました。

つまり、若葉にとっての「貧しさ」とは、たったひとつの価値観に囚われてその視野を狭くしてしまう「コンプレックス」というよりも、ひとつの価値観から多くのものを得ようとする「モチベーション」とでも言うべきものなのです。過去を否定するというよりも過去を受け入れて前を向いて走り続けているところが、若葉というキャラクターを魅力的に見せている最大の理由ではないでしょうか。というわけで、現在の若葉の考え方としては、自分自身の過去の中でも「貧しさ」のみを否定し、それ以外は肯定していると考えられるわけですが、社会に出て多くの人の価値観と出会い、特に草太との交流の中で虚勢を張っているうちに、その線引きがいつの間にか曖昧になってきてしまっているところがあります。

今回は若葉が草太への想いをはっきりと自覚する過程と同時進行で、若葉が自分の過去と向き合う姿勢を思い出していく過程が描かれており、そのあたりの描写にあたっては桜川日向(谷花音)の存在が大変重要な役割を果たしていました。若葉が日向を子供扱いせずに決して甘やかさない理由は彼女が子供嫌いということの他に、日向が自分の幼少時代とは正反対の生活をおくっていることと無関係ではないでしょう。若葉の中には日向が物質的な面でも母親の愛情という面でも自分の幼少期に比して恵まれているという思い込みがあります。それは日向が若葉に対して絶対に弱みを見せないということもありますが、若葉が日向の表面的な生活だけを見て、日向の寂しさを想像できないことに由来するものでもあります。

そのような人知れず抱える日向の思いを若葉と生活を共にする中に織り込んでいるのは見事でした。日向があえて狭い若葉のアパートに泊まりたいと言ったのは、「ぬくもり」を求めてのものであり、日向にとって若葉と同じベッドで眠ることは、不平を言いながらもとても新鮮な体験だったに違いありません。そんなものが珍しくもない若葉は、自分の幼少期を「川の字で眠る」というキーワードで語るわけですが、日向にとってはその言葉の響きですらも「ぬくもり」を感じさせるものでした。今度は草太の家にお泊りしたいと言い出した日向が実際に川の字で寝るときに見せた笑顔は、嘘偽りのない子供らしさを含んだものでした。このときの日向の表情を見逃さなかったのが草太だったところが重要で、若葉は草太の言葉によって貧しいだけじゃなかった幼少時代を思い出します。

 「でも、それって、いつもお父さんがそばにいたってことですよね。どっちが本当のぜいたくなんですかね」

再び若葉は不覚にも眠りに落ちてしまうわけですが、夢の中に出てきたのは貧しくとも「ぬくもり」があった幼少期の思い出でした。このとき若葉は草太によって自分の幼少期の「価値」を思い知らされたのであり、もちろん夢見心地の中で聞いた草太の告白も若葉が自分の気持ちをはっきりと自覚する重要なきっかけですが、草太が自分の幼少期の価値を認めてくれたことが若葉の気持ちを優しく解(ほど)いていったというところもとても重要だったと思います。やはりこの二人はその根底に共有する価値観を有しており、二人が惹かれあうのはもはや必然ということになると思います。それでは二人の間に立ちはだかる障害とはなんでしょうか。今回のラストシーンで露見したとおり、それは若葉の「嫉妬心」であり、若葉にとってこれが「初恋」ならば、当然この嫉妬も初体験なのです。若葉にとって草太をめぐるあらゆる感情が初体験だとすれば、とてもじゃありませんが二人の関係がすんなりと進展していくとは思えません。

さて、すでに若葉というキャラクターの魅力については触れましたが、私は若葉の草太に対する強気な態度とは別に時折見せる「素直さ」もとても魅力的だと思っています。もっともこれは何事にも全力でぶつかっていく若葉の姿勢とも通じてくるところがあって、今回の終盤自分の気持ちをはっきりと自覚したときに、「ちゃんと逃げずに向き合うことが大事」という日向の助言そのままに草太の元に走り出したあの姿こそがその際たるものということになるでしょう。前回取り上げたエレベーターのシーンも同様で、若葉はどうしても「自分の気持ち」がいかなるものなのかを知りたくて草太に正直にぶつかっていこうとするのです。また、今回で言えば保育園で夢見心地の中で聞いた言葉が誰のものなのかを知りたくてすぐに草太や日向に聞いてしまうところが、余計なことを考えずに自分の気持ちに正直であろうとする若葉らしい「素直さ」であり、これも彼女の魅力のひとつではないでしょうか。普段はとても理屈っぽい言動で自分を保っていながら、自分の気持ちの問題になると理屈を忘れて感情の赴くままに正面突破を図ろうとする。多くの人は理屈っぽい人生を嫌いながら、自分の気持ちに限ってはまずは理屈で説明して逡巡してしまうところがあって、人間は本能的に若葉のような「素直さ」に憧れを持っているような気がします。

最後に演出面について一言。『大切なことはすべて君が教えてくれた』でも感じたことですが、関野宗紀監督の演出は正直凡庸だなと思います。前回も言及したとおりこのドラマの演出はもっと思い切ってやっていいんだと思います。やっぱり第1話と第2話の武内英樹監督の演出が素晴らしかったという思いが強いので、なおさら物足りなさが残ってしまいます。どうもこのドラマは若手ディレクターに任せて、武内監督は最終回まで登場しないようなにおいがしてきたのも残念なのですが、武内監督が見せてくれたように毎回「おっ!」と思わせるシーンをひとつぐらいは見たいものです。

(追記)
次回以降の演出担当者は、
第7話
第8話
第9話
第10話
最終話
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川村泰祐 監督
武内英樹 監督
川村泰祐 監督
谷村政樹 監督
武内英樹 監督
となるそうです。武内英樹監督は映画『テルマエ・ロマエ』(2012年公開予定)の制作と同時進行だそうで・・・

関連記事 : (11)全開ガール (2011-09-24)
(10)全開ガール (2011-09-17)
(9)全開ガール (2011-09-10)
(8)全開ガール (2011-09-02)
(7)全開ガール (2011-08-24)
(5)全開ガール (2011-08-13)
(4)全開ガール (2011-08-07)
(3)全開ガール (2011-07-27)
(2)全開ガール (2011-07-20)
(1)全開ガール (2011-07-15)


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