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『大人ドロップ』と『主人公』 [その他]


私は、3年前に『大人ドロップ』という映画を観て、不思議な体験をしました。
自分が経験した青春とは似ても似つかない高校生活が描かれているのに、
まるでそれが自分のことであるかのような懐かしさを感じたのです。
それは憧れや羨望とは違う、確かに“自分が重なった”と感じる瞬間がいくつもありました。
どうしてそのような感慨を得たのか、はっきりとした答えを出せないままでいたのですが、
先日、さだまさしさんの『主人公』という歌を聴いた時に、
『大人ドロップ』という映画は、私にとっての“旅行案内書(ガイドブック)”で、
私自身も、私の映画の“主人公”だったんだ、ということに気が付いたのです。
❝ そういえば あなたの服の模様さえ覚えてる ❞
私にとってそれは服の模様ではないかもしれない。あなたの口癖や仕草、リップの色や髪の匂い・・・
『大人ドロップ』が描いたものとは、青春時代を象徴する、いくつもの断片であり、
私はその象徴を固有の記憶に変換しながら映画を観ていたのでしょう。
❝ あなたは教えてくれた 小さな物語でも 自分の人生の中では 誰もがみな主人公 ❞
私は、入江杏という象徴に自分が好きだった人の記憶を重ね、
自分も小さな物語の主人公だということを教わったのかもしれません。
そして折に触れ、その思い出に支えられながら、人生を歩んできたということも・・・
❝ 時折 思い出の中で あなたは支えてください 私の人生の中では 私が主人公だと ❞
青春時代の思い出とは、
自分が自分の人生の主人公であることを思い出させ、励ましてくれる、かけがえのない記憶です。
私にとって『大人ドロップ』は、好きな時に取り出せる、“時を遡るチケット”となりました。


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ヤクルトスワローズ荒木大輔コーチの手腕とは? [その他]

当ブログのテーマとはまったく毛色の違う話なんですけど、
とても印象に残った出来事があったので記事として残しておきたいと思いました。

実は私、中学生までは野球少年でして、物心ついたころからヤクルトスワローズの大ファンでした。
ただ、如何せん下手くそでして、高校では放送部に入って、完全に文化系にシフトし、
野球はもっぱら見るもの、たまにパッティングセンターに行くぐらいのもので、
私にとって野球とは趣味にもならないぐらいの存在になってしまいました。
大学に入ると、競馬に目覚めて、テレビで野球を放送していても見向きもせず、
いよいよかつての野球少年の面影はどこへやらということになって、
一時は選手の名前もほとんど知らない状態にまでなってしまいました。

それでもここ数年は、歳のせいか無性に野球が恋しくなってきて、たまにスカパーで野球中継を見るのですが、
先日(9/21)の「ヤクルト×広島」戦で、改めて野球って素晴らしいスポーツだと思える瞬間に立ち会うことができました。

ヤクルトも広島もクライマックスシリーズ出場は絶望的であり、
選手たちは別として、客観的には消化試合の意味合いが強い試合なので注目度はきわめて低い試合です。
ただ、ヤクルトファンとしては、来季の監督が小川淳司監督代行に決定し、
青木宣親選手の首位打者争いとシーズン200本安打がかかっていたりしていて、それなりに見所がありました。

この日の中継の解説は、オリジナリティあふれる切り口で解説をする広島の元監督・達川光男さん、
実況はやわらかい口調が心地いい元NHKの島村俊治さんという、個人的には大好きな中継体制となっていました。
その出来事が起こったのは「2-2」の同点で迎え、広島の攻撃となった8回裏のことでした。

ヤクルトは先発・由規投手が同点に追いつかれた6回までで降板し、7回を中継ぎ投手二人で凌いで、
8回は同点にもかかわらず、勝ちパターンのセットアッパー・松岡健一投手を繰り出して、
9回の攻撃で味方の勝ち越しを待つという強気の作戦に出てきました。
言わずもがな1点も許してはならない状況です。

松岡投手は一昨年あたりから中継ぎ投手として頭角を現してきた選手で、
昨年は52試合に登板、今年はこの試合までで66試合に登板と、フル回転の活躍で
チームにとって不可欠な投手のひとりとなっています。
ただ、今季の松岡投手は終盤にきて疲れが見えてきていて、大事な場面で失点という状況も少なからずありました。
それでもここ数試合は復調気配を見せていたし、
なによりもこの大事な場面を松岡投手に託すのは首脳陣の絶対的な信頼があればこそのものだったと思います。

 YS-Kenichi-Matsuoka.jpg
ヤクルトスワローズ#21
松岡健一投手
 

しかし、この日の松岡投手は球に切れがなく、精彩を欠き、
この回の先頭バッター、栗原選手にホームランを打たれて、あっさりと勝ち越しを許してしまいます。
その後もヒット2本を打たれて、合計2失点したところで、ヤクルトの荒木大輔投手コーチがマウンドに向かいました。

そして、それが起こったのは一瞬のことでした。
首脳陣の期待に応えられなかった松岡投手は表情が強張っており、
いたたまれない様子で早々にベンチへ帰ろうとしたそのとき、
荒木コーチが松岡投手の腰に手をやって、彼をマウンド上の選手の輪の中に戻したのです。

正直申し上げて、本当に何気ない一瞬の出来事なので、
私は解説の達川さんがそのことを指摘するまでその行為が何を意味するのか、
全然わからなかったし、この日の解説が達川さんじゃなかったら、
プロ野球の裏側にある真実を一生知らずにいたことでしょう。

達川解説は、「さすが荒木コーチですね」と前置きした上で、
その行為をヤクルトというチームの結束力の強さの現れであると解説します。
通常、プロ野球の投手交代では、監督から主審に交代が告げられた時点で、
マウンド上のピッチャーはお役御免、早々にベンチに帰っていく光景は日常茶飯事ですが、
達川さんによると、次の投手がマウンドに上がるまで、
前の投手がマウンド上に残っているのはヤクルトだけだそうです。

これは荒木コーチのポリシーによるもので、
自分が背負ったランナーをマウンド上で次の投手にしっかりと引き継ぐ、
という意味合いがあるそうです。
もちろんきわめて形式的なことなんですけど、
マウンドから逃げるようにベンチに戻るのではなくて、マウンド上の円陣の中で、
次のピッチャーにボールを託すという行為は、実はチームの強い結束を象徴していて
野球というものがチームスポーツであることを改めて教えてくれています。

YS-Daisuke-Araki.jpg
ヤクルトスワローズ#72
荒木大輔投手コーチ

松岡投手はそのような荒木コーチの考え方を知らないはずはないので、
思わずマウンドを降りようとしてしまったのは、尋常じゃない精神状態にあったものと思われます。
荒木コーチは、そんな松岡投手のいたたまれない心情は痛い程わかっていたはずですが、
あえて松岡投手の腰に手をやって、「最後の仕事」を促したわけです。
松岡投手は、思い出したとばかりにマウンドに戻り、次の投手の到着を待ってベンチに戻りました。
ベンチの一番後ろの列に腰を下ろし、呆然とした松岡投手の目にはうっすらと悔し涙のようなものが見て取れました。

達川さんは、そのような「儀式」がヤクルトの投手交代に存在していることは知っていたそうですが、
この日の投手交代で荒木コーチが松岡投手の腰に手をやったのを見て、それが荒木コーチのポリシーによるもので、
ヤクルトの投手陣をここまで育て上げた手腕の片鱗を見たような気がする、というようなことをおっしゃっていました。

「今日はいいもの見せてもらいましたね」

いやいや、達川さんの解説がなかったら、誰も気がつかないですから!
プロの世界にも、高校野球のような、どこか青臭い「儀式」が存在していることには驚きましたが、
それこそが野球というチームスポーツの本質であり、魅力であることを再認識したし、
そういう何気ない形式的かつ基本的なことでチームの団結を強めようとする考え方は、
プロの指導者にも必要なことなのかもしれません。荒木コーチは絶対にいい監督になりますよ!

後日談ですが、松岡投手はこの翌日(9/22)の試合でも1点リードという重要な場面で登板しました。
それはすぐにリベンジのチャンスを与える荒木コーチの温情と捉えることもできますが、
実はプロの世界においてはこんなにシビアなことはないのではないかとも思います。
結果がすべてのプロの世界で、与えられたチャンスで結果が出せないことほど辛いものはありません。

結果はというと、この日の松岡投手は前日同様、球に切れがなく制球も乱れて、2人ランナーを出したところで降板。
残念ながら、シーズン残り試合では、セットアッパーのポジションを他の投手に譲らなければならないかもしれません。
もっとも、ここまで68試合に登板して32ホールド、3セーブですから、シーズントータルの成績で言えば上出来です。

でも、この日の松岡投手が前日と違っていたのは、ベンチに戻ってからでした。
前日はベンチの後ろの列で呆然としていた松岡投手でしたが、
この日はグラブを置くとすぐに最前列に出てきて声を出し始めるじゃありませんか。
「荒木イズム」はヤクルト投手陣に確実に浸透しています。

(了)

画像の出典は、Wikimedia Commonsです。


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