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(9)流れ星 [ドラマレビュー]

流れ星 完全版 DVD-BOX

[ DVD-BOX ]
流れ星 完全版

( ポニーキャニオン / ASIN:B0045UADVM )

『 流れ星 』
第9回
( 2010年 フジテレビ 公式サイト
演出:石井祐介 脚本:臼田素子、秋山竜平 出演:竹野内豊、上戸彩、北乃きい、松田翔太、稲垣吾郎

師走に入って各ドラマが佳境を向かえており、ほとんどのドラマが次週に最終回を控えている状況ですが、たとえば、今週の『獣医ドリトル』も、最終回に向けて物語を盛り上げるようなエピソードと演出がとても効果的に働いており、今回はこれまででもっともクオリティの高い回だったと思います。今週の演出を担当したのは、『花より男子』シリーズなどを手がけたTBSの石井康晴監督で、この方も非凡な才能を持ったドラマディレクターだと思っています。今回は夏帆ちゃんがゲスト出演という回でしたが、彼女が登場するシーンの撮り方を見て、今日は石井監督の演出だということがすぐにわかりました。『獣医ドリトル』は、石井監督をチーフとして、3人のディレクターで演出を分担していますが、他のお二人は若手であり、正直申し上げて、石井監督が担当した回と若手お二人が担当した回を演出面のみで比較すると、そのクオリティのギャップは一目瞭然でしょう。

そのような演出スタッフの体制は、『流れ星』とも似ていて、ベテランの宮本理江子さんをチーフとして、若手の石井祐介さんと並木道子さんがセカンド・サードとなっており、前回の宮本監督の演出を見てしまえば、こちらも演出面のクオリティのギャップは一目瞭然ということになります。それでも、石井監督は涼太が息を引きとるシーン、並木監督は「梨沙は僕の妻です!」のシーンと梨沙がおなかを見せるシーンと、それぞれ印象的なシーンもしっかり作っていて、宮本監督の演出スタンスをしっかりと踏襲し、この作品の世界観をまったく壊していません。宮本演出と容易に比較されてしまう状況は、若手のお二人にはちょっと酷であり、石井祐介監督が担当した今回は、前回の宮本演出が出色の出来だっただけに演出に限って言えば物足りない印象を覚えてしまったのも仕方がないところでしょう。今週は、演出というよりも脚本で見せた回だったかもしれません。

本作をラブストーリーと位置づければ、健吾と梨沙、二人の互いに対する感情の要所を押さえることが脚本上も演出上もとても重要になってきます。「感情の要所」とは、互いを異性として意識した瞬間と、互いを好きであることを確信した瞬間のことで、この二つのポイントを押さえることは、ラブストーリーにおけるひとつのセオリーということになります(⇒参考:海がきこえる)。ただ、このドラマが、普通のラブストーリーと一線を画するのが、主人公二人がその種の感情を容易に表を出さない点で、一つ目の「互いを異性として意識した瞬間」については、振り返ってみると様々な解釈が可能であり、改めてそのあたりを掘り下げてみるのも面白いところでしょう。そして、最重要ポイントである「互いを好きであることを確信した瞬間」は、言うまでもなく前回のラストシーンであり、宮本演出がこれを劇的に盛り上げることに成功したことは前回触れたとおりです。

とはいえ、実のところ前回は二人が抱き合うという状況が描写されたのであって、それだけでも十分に二人の感情の核心に触れているとも言えますが、二人の互いに対する気持ちを言葉としてはっきりと表出させるのが、やはりラブストーリーにおける重要なセオリーということになります。前回のラストシーンがあまりにも劇的過ぎて、言葉がなくてもその点については十分すぎるほどの達成感があるところですが、このドラマの脚本が改めてしっかりしていると感じるのは、あのラストシーンをもってしてもなお、主人公二人に互いの気持ちを確認させているところです。これは最終回に向けての物語の大きな起伏を考えれば、ドラマ制作上、絶対に確認を怠ってはならない感情だったと思っています。ただ、このドラマらしいところは、健吾も梨沙も「好きだ」や「愛してる」などというありきたりな言葉を用いた感情表現をしないところです。

健吾と梨沙が水族館裏の海辺で星空を見ながら流れ星の話をするシーンでは、タイトルともなっている<流れ星>が、このドラマ始まって以来初めて、はっきりとエピソードとして組み込まれました。海辺で並んで星空を見上げる二人のバックショットからは、これまで感じたことがなかったこの瞬間ならではの二人の距離感が表現されています。流れ星に願い事をするという行為に対する梨沙の素朴な疑問は彼女らしいものだし、強く願うことが大事だという健吾の答えも彼らしいものでしょう。そして、梨沙の口から出た願い事がこれです。

「このままがいい・・・叶うかな・・・」
「きっと叶う」

野暮なのは承知で、これを言い換えると、

「ずっとあなたと一緒にいたい・・・いてくれるよね・・・?」
「わかってる。ずっと一緒にいるよ」

となり、<流れ星>への願いという形で、互いの気持ちを確認させる巧みなシーン作りがなされています。しかも極めてシンプルな台詞で、はっきりと互いの感情の核心を表出させているところはこのドラマの脚本ならではのものだし、二人ともその言葉の意味をはっきりと噛み締めているという描き方は、このドラマならではの演出ということになるでしょう。ただ、このシーンは本当に惜しい。とても重要なシーンだっただけに演出的にはもう少し何らかの工夫が欲しかったところです。

また、このシーンには、重要な「ハッピーエンドフラグ」が二つ立っているところも見逃せません。このシーンにおける健吾の「強く願えば叶う」と「きっと叶う」という台詞を結びつけて冷静に考えると、もはや梨沙の願い事が叶わないという選択肢はありえないということになります。これまで再三にわたって描写されてきた健吾のムダにイケメンかつ誠実な人柄を考えれば、今後彼がこの言葉の意味を軽んじるなどということはあるはずがないでしょう。

もうひとつは、「約束」の存在です。展望台で流れ星を見ようという健吾の提案に梨沙は「じゃあ、来年、連れてってくれる?」と応じます。梨沙という女性はこれまで、今を生きることで精一杯という生き方をしてきており、この台詞には今よりも未来を大事にしたいという、健吾に出逢うことで獲得した梨沙の新しい価値観が込められています。健吾もこの意外な返答の意味を汲み取っただろうし、繰り返しになりますが、誠実な彼がこの約束を軽視することはありえません。私は、かなり初期の段階からこのドラマが、たとえば、梨沙が命を落とすというような悲観的な結末を迎えることはまずありえないだろうと考えていますが、このシーンを観てそのことをはっきりと確信しました。

「・・・そっか・・・」二人の「感情の核心」という意味で、もうひとつ触れておきたいシーンがあります。
出版社に抗議に出向いた帰りに体調を崩した梨沙に対する健吾の台詞から、

「あの記者になんて言うつもりだったの?」
「・・・この結婚は偽装なんかじゃないって・・・しっかり夫婦だって言おうとした」
「・・・そっか・・・」

この「そっか」直前、竹野内豊さんの表情のお芝居が本当に素晴らしい。梨沙が記者に対して言おうとしたことは、間接的ではありますが、健吾への偽りのない素直な感情表現であり、この言葉を聞いた健吾の表情が上の絵ということになります。さすがにキャプチャー画像では伝わりにくいですが、本当に微妙な表情の緩みを作って、この梨沙の率直すぎる行動と梨沙が用いた「夫婦」という言葉に対する内なる喜びを表出させています。結局このシーンでも、梨沙は言葉で、健吾は表情で、二人が相思相愛であるということを表現しており、我々は改めて二人のその種の感情に疑う余地はないということを確認します。

以上のような今回の前半部分における主人公二人の感情の核心についての描写は、後半部分で描かれる健吾が下した決断に基づく一連の行動とは表面的には相反する要素ということになります。しかし、今回を見終わったときの余韻として、健吾が選択した決断の「真意」が我々にしっかりと伝わってくるところが重要です。健吾は梨沙との「約束」も梨沙の「願い事」も決して忘れてはいないでしょう。最終回の焦点は、当然二人が結ばれるかということになるわけですが、このことは梨沙が「強く願えるか」に懸かっているとも言えるわけです。今回、これまで漠然としていた<流れ星>が一躍、重要なキーワードとしてクローズアップされ、なんの違和感もなくいつの間にか物語に織り込まれてしまったのは、間違いなく脚本の力ということになります。

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コメント 4

テンコ

こんばんは~!
毎度のことですが、ジャニスカさんのレビューはあまりにもすばらしくて、感心のため息が出ました。自分の中で”もやっ”と感じたことをすっきり明晰な分析で説明していただいているという感じです。
>ベテランの宮本理江子監督をチーフとして、若手の石井祐介さんと並木道子さんがセカンド・サードとなっており
なるほど、それで若干、回ごとにちょっと違いがあるのですね。そうやってドラマを見るとさらに面白いですね。
今回は2人の愛情の確認のことばがしっかりあり、嬉しかったです。その表現がとてもしゃれていて憎いな、と思いました。来年の約束、このまま一緒に居たいという気持ち。
しかし…しばしの別れが待っていました。韓国ドラマでは必ず訪れるハッピーエンドの前のしばしの別れ、だと思って、次回は必ずハッピーエンドだと信じて待ちたいです。
by テンコ (2010-12-17 22:02) 

ジャニスカ

テンコさん、こんばんはー。感心のため息、うれしいです。。。ありがとうございます(^^)。

長年ドラマを観ているとパターンのようなものが見えてきて、ここに書いたのはそれに基づいたひとつの解釈ですので、いい意味で「裏切り」ということもあるかもしれません。ハッピーエンドは揺るぎないと思うんですけどねー。

最終回はもちろん宮本演出なので、みどころは多いです。今からラストシーン・ラストカットを想像しているんですけど、最後はやっぱり「クラゲ」で締めるような気もしています。漂うミズクラゲの美しさってこのドラマを見るまで知りませんでしたからねー。私がディレクターならあのクラゲの水槽でまとめたいですけど、さぁどうでしょう。。。
by ジャニスカ (2010-12-18 21:31) 

pika

はじめまして。ドラマ『流れ星』にハマっていてこちらのブログにたどり着きました。
自分では到底考え至らない鋭い分析にただただ圧倒され、読みふけってしまいました!

視聴率=ドラマの真価ではないのでは?という漠然としたもやもや感も、ジャニスカ様の理路整然とした分析を拝読して、溜飲が下がる思いでした。

ドラマの公式サイトにも使われているミズクラゲの水槽のまえの2人のショットがとても素敵だと思います。自分も、この水槽の前で2人がたわいないおしゃべりを(言葉少なに)しているような何気なくて心温まるようなラストシーンだったらいいなと思っています。

ジャニスカ様のお陰でドラマや映画を観る目が変りそうです。
これからもおじゃまさせて頂きますね。

by pika (2010-12-19 10:44) 

ジャニスカ

pikaさん、はじめまして。コメントありがとうございます!お褒めのお言葉うれしいです(^^)。

私はこのブログを通じて、作り手が意図したことを汲み取るという、映画やドラマを鑑賞する上でのもうひとつ醍醐味を伝えられればと思っています。私のレビューを読んで、こういう視点もあるということをお知り頂き、興味を持って頂けたことは何よりも嬉しいことです。

「クラゲ」は外せませんよねー(^^)。ただ、水槽の前のふたりのバックショットはすでに第9話に盛り込まれていて、もう一度持ってくることもあるかもしれませんが、宮本さんのことですからもう少し工夫をしてくれると思います。

私はシャンパンタワーのクラゲが物語的にも演出的にも今ひとつ機能していないと考えていて、これを最終回で効果的に使用するのではないかと考えています。あそこでマリアの退院祝いをするというような話もありましたけど、健吾が大変な選択をしてそれどころじゃないですから、数年後のクリスマスにシャンパンタワーの前でふたりが再会とか、仲間や家族に囲まれてプチ結婚式的なものが始まっちゃうというような流れを妄想しています(^^;。おっしゃるとおり、最後も言葉少なな方がこのドラマらしくていいですねー。

我々は第8話のラストシーンを観てしまっているので、ハードルがかなり上がってしまっていますが、どんなラストを見せてくれるのか本当に楽しみです。今頃、監督は最後の編集作業に追われているいったところでしょうか。

「流れ星」が終了したら、再び映画レビューの方も書いていきますので、また遊びに来てください!

by ジャニスカ (2010-12-19 18:32) 

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