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ハナミズキ (上) [映画レビュー]

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(C)2010 映画「ハナミズキ」製作委員会
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『ハナミズキ』
( 2010年 東宝 128分 )
監督:土井裕泰 脚本:吉田紀子 主演:新垣結衣、生田斗真
          Official Wikipedia / Kinenote          

本作を観終わった直後、私は映画やドラマを観ても、もう絶対に浸ることができないと思っていた感覚を久々に堪能していることに気がつきました。その種の感覚というものは、映画やドラマを自分なりの主体的な価値基準で観ることができるようになった10代の頃にはしばしば体感したものですが、年を重ねるにつれてその価値基準に対して様々な外部的バイアスが影響力を増していくと、10代の頃に感じた「純粋な感動」と同じものを体得するのは次第に困難になっていきました。私はそのような感動を再び体感することを歳のせいにして半ばあきらめていたわけですが、本作を観て「あの感覚」に再び浸っている自分がいることに驚くと同時に、そんな作品に出逢えたことは私のようないち映画ファンにとって、とても価値のあることだと考えるようになっています。そして、重要なのは本作を観て数日を経過した今でも、その深い余韻が継続しているところで、私はその余韻の本質が如何なるもので、どこから来るものなのかを掘り下げずにはいられません。

< ----- 以降の記述で物語・作品・登場人物に関する核心部分が明かされています。----- > 

ご存知のとおり、本作のプロットは10年にわたるラブストーリーで、その舞台を北海道、東京、ニューヨーク、カナダへと移していくという壮大な物語であり、観る前の印象として、2時間の映画としてまとめるには大風呂敷を広げた感があったのは否めないところです。ところが、観終わってみると、ストーリー上の舞台の変遷にはまったくムリはないし、10年という時間の変遷についても主人公のみならず、すべての登場人物の成長と経年ぶりが丁寧に描かれており、壮大なテーマを決して御伽噺(=現実離れした空想的な話)にはせず、一貫して現実的な視点を意識して緻密に練り上げられた優秀な脚本だったと思います。

脚本を担当した吉田紀子さんといえば、映画脚本では『涙そうそう』(2006年)が記憶に新しいところですが、個人的にはフジテレビのドラマ『じんべえ』(1998年)がとても印象に残っていて、私は隠れた名作だと思っています。吉田紀子さんは、表面的なドラマというよりも、登場人物の心情の機微を際立たせるドラマ作りがとても上手な方で、野暮な説明的台詞を極力省いた脚本は、我々にそれなりの想像力を要求し、結果的に印象に残るシーンを数多く生み出しています。また、ドラマ作りにキレイ事だけではない現実的な視点をしっかりと盛り込む手法にはとても好感を持っていて、そのようなドラマの作り方は文学的、悪く言えば地味ということになるかもしれませんが、物語やテーマが壮大になればなるほど、そのような現実的な感覚は無視できないものになると考えられます。

本作のような王道のラブストーリーにおいては、主人公の感情の推移を切り取ることがとても重要で、それはラブストーリーの根幹となる描写となりますが(⇒参考記事:海がきこえる)、「10年の愛」を描く本作においては、同時に二人の感情の不変性や永続性といったものを盛り込まなければ、物語の結末には感動も説得力も生まれなかったと思います。もっとも本作における主人公二人の「感情の推移」についてはかなり端折(はしょ)った感があって、駅のホームで木内康平(生田斗真)が平沢紗枝(新垣結衣)に参考書を手渡すというワンシチュエーションで二人の感情は一気にマックスに達しており、私なぞは若干の物足りなさを感じてしまいましたが、本作がこれまでのラブストーリーと一線を画しているのがこの点であり、二人の感情表現の大部分は「変化」ではなく「不変性」を強調する描写に割かれています。

そのような感情の不変性、すなわち主人公二人が作中終始一貫して相思相愛であるという事実は、二人が生きる10年という時間の変遷の中で随所に織り込まれているわけですが、二人が互いを想い合う感情の本質は不変であっても、二人がその種の感情を表現する方法が微妙に変化していくところがこの脚本の巧みなところです。そのような視点で、主人公二人が発する感情表現がどのように変化しているのかをストーリー上の3つの時間区分の中で掘り下げてみると、とても興味深い事実が明らかになります。

一番最初に主人公二人の感情が端的に表現されたのは、高校時代、釧路から帰途につく電車での口喧嘩でした。受験勉強の遅れをあせる紗枝とそれを理解しながらもクリスマスを一緒に過ごしたい康平それぞれの気持ちの微妙な齟齬が口論を生み、康平が衝動的に電車を降りてしまうわけですが、このあたりの康平の行動というものはまだまだ包容力が成熟していない高校生の男の子ならではのものです。その一方で、紗枝も康平を追いかけて電車を降りてしまうわけですが、ほとんど泣きそうになりながら「勝手にひとりで降りないで!」と言う紗枝の姿にもまた、高校生の女の子ならではの「弱さ」が現れています。このシーンには10代の恋愛感情の危うさや繊細さといったものが的確に表現されており、その後の雪が降る中を寄り添って歩く二人を捉えるシーンとあいまって、「青春時代」が凝縮された素晴らしいシーンに仕上がっていると思います。

その後、東京の大学に進学した紗枝と釧路で漁師を目指す康平の遠距離恋愛が始まります。康平がクリスマスに上京するシーンでは、都会の空気に圧倒される康平とすっかり都会の生活に馴染んでいる紗枝の対比が描かれていますが、このあたりには都会の雰囲気に加えて、どこか大人びた紗枝の変化に戸惑う康平の心情がとてもうまく表現されています。その一方で、そんな康平の態度に戸惑いながらも必死に康平を追いかけ、康平の気持ちに寄り添おうとする紗枝の姿からは、先に触れた高校時代の彼女が持っていた「弱さ」は影を潜め、紗枝の人間的成長が織り込まれています。紗枝の部屋で二人は互いの気持ちを確認しあうわけですが、積極的に唇を求めたのが紗枝の方だったのがとても印象的です。

さて、別離を決意した二人はそれぞれの道を歩き始めるわけですが、数年後、友人の結婚パーティーで二人が久々に顔を合わせたシーンは個人的にとても印象に残っています。我々は康平が結婚して一家の大黒柱となり、紗枝はニューヨークでキャリアを積み重ね、それぞれが自立した社会人に成長していることを知っていますが、このときの二人の間には大きなタイムラグが存在していて、二人がどんな会話をするのか、ちょっぴりドキドキしながら見守ります。このシーンにおける二人の会話の内容は客観的には世間話の域を出ないものですが、それが却って二人の精神的な成長を印象付けることになっていて、並んで談笑する二人の2ショットは、二人のその後の運命を暗示していたような気がしています。実はこのシーンは二人の感情の不変性を表現するための重要な伏線になっていて、実際、その後のシーンで、二人は叶わぬと知りながらその気持ちを確認することになります。ハナミズキの木の下で二人が抱き合う本編中屈指の名シーンは、このシーンにおける二人の成長描写と灯台のシーンから帰りの車中にかけての二人の心情の微妙な揺れ動きの上に成立していて、段階を踏んだ盛り上げ方は大変見事なものだったと思います。

今回は3つの時間区分の中で最もわかりやすく二人の恋愛感情が表現されたシーンを取り上げてみましたが、この種の感情が端的に発現するシーンというのは、時間的な制約もあってそう多くはありません。それでも二人の恋愛感情を確認できるシーンが物語の要所にしっかりと盛り込まれているおかげで、我々は二人の感情の不変性と永続性を認識することとなり、物語の結末に説得力と深い感動がもたらされています。そして、これらのシーンでは二人の感情の不変性を描く一方で、そのような感情表現の描写の中に二人の人間的成長を見出すことができて、内面的な感情の不変と表面的な成長の対比は表現としてとても巧みなものだったと思います。我々はこの物語の10年という時間の変遷を主人公二人の人間的成長の描写をもって感じ取ることができるわけです。

本作の脚本は、「ハナミズキ」という題材の盛り込み方やアバンタイトルとエピローグの連結、舞台の変遷など物語全体の構成が大変巧みであることはもちろんですが、それよりも特徴的なのは登場人物、とりわけ主人公二人の感情表現と人間的成長についての描写が計算し尽くされている点で、吉田紀子さんはやはり登場人物の心情の機微を切り取るのがとても上手な脚本家であることを再認識しました。

次回以降、本作の演出面などに言及して評価を記載したいと考えています。久々にリピートする気になっていますので、もうしばらくお待ちください。

(つづく)


 参考:吉田紀子さんが脚本を手がけた主なテレビドラマ

  『悪魔のKISS』(1993年 フジテレビ 主演:奥山佳恵)
  『成田離婚』(1997年 フジテレビ 主演:草彅剛、瀬戸朝香)
  『めぐり逢い』(1998年 TBS 主演:福山雅治、常盤貴子)
  『じんべえ』(1998年 フジテレビ 主演:田村正和、松たか子)
  『お見合い結婚』(2000年 フジテレビ 主演:松たか子、ユースケ・サンタマリア)
  『涙をふいて』(2000年 フジテレビ 主演:江口洋介)
  『できちゃった結婚』(2001年 フジテレビ 主演:竹野内豊、広末涼子)
  『Dr.コトー診療所』シリーズ(2003-2006年 フジテレビ 主演:吉岡秀隆)
  『優しい時間』(2005年 フジテレビ 主演:寺尾聰)
  『ハタチの恋人』(2007年 TBS 主演:明石家さんま、長澤まさみ)
  『天使のわけまえ』(2010年 NHK 主演:観月ありさ)
  『秘密』(2010年 テレビ朝日 主演:志田未来、佐々木蔵之介)


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ひょう

拙ブログにご訪問いただき、
どうもありがとうございました。
(下)のほうもすばらしい文章で
大変興味深かったです。
これからも、頑張って下さい。応援しています。

by ひょう (2010-09-12 11:57) 

ジャニスカ

こちらこそご訪問ありがとうございます!

文章をお褒め頂きありがとうございます。照れるばかりです(^^ゞ。
書きたいことを書いてるだけなんですけど、
いちおう「感想」ではなくて、素人ですけど「批評」を目指しております。

これからも映画の新しい見方を提示していけたらと思っています。
応援ありがとうございます。。。(^^)
by ジャニスカ (2010-09-14 17:26) 

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