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三本木農業高校、馬術部 [映画レビュー]

三本木農業高校、馬術部 ~盲目の馬と少女の実話~ [DVD]

[ DVD ]
三本木農業高校、馬術部 ~盲目の馬と少女の実話~
( バンダイビジュアル / ASIN:B001RBSQPW )

『三本木農業高校、馬術部』
(2008年 東映 117分)
監督:佐々部清 脚本:岡田茂、佐々部清 出演:長渕文音、柳葉敏郎、黒谷友香、松方弘樹
          Official Wikipedia / Kinejun          

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(左から、佐々部清監督、黒谷友香さん、長渕文音さん、柳葉敏郎さん)

実話を題材とした映画とはこうやって作るものであるというお手本のような作品です。『余命1ヶ月の花嫁』のレビューにおいて、実話を取材した映画の存在意義について触れましたが、この種の映画では、物語をあくまでも「フィクション」として作り込む作業が重要で、製作者には明確な「テーマ性の付与」が要求されます。本作のテーマは、副題の「盲目の馬と少女の実話」に集約されており、主人公の高校生・菊池香苗(長渕文音)が盲目の馬・タカラコスモスとのふれあいを通じて成長していく姿をリアルに追いかける青春物語ということになります。

天使の恋』のレビューにおいて、お芝居の経験がない人間を主役に抜擢することの無謀さを糾弾したばかりですが、本作を見てしまえばそれも撤回しなければなりません。歌手の長渕剛さんと女優の志穂美悦子さんを両親に持つ長渕文音ちゃんは、本作がデビュー作となりますが、この作品はむしろお芝居未経験の彼女でなければ成立しなかったとまで言えてしまうと思います。経験値がないゆえに、彼女の表現力は純粋にこの役のために存在しており、その計算が存在する余地がないお芝居は極めて純度が高いものだったと思います。製作者がこのキャスティングで狙ったのはまさにそのような効果であり、「実話」という本作の肝とも言うべき要素は、彼女の女優としての成長と役柄の精神的成長のシンクロによって成立しています。

地方を舞台とした作品を多く手がけている佐々部清監督は、作品に「地方色」を巧みに盛り込んで、物語に独特の情感を刻み込んでいくのがとても上手な監督です。今回は東北は青森が舞台でしたが、本作における「地方色」とは、表面的には東北弁や八甲田の山並みなどの自然描写ということになりますが、目に見えない部分ではそこに生きる人々が持つ東北地方独特の「ゆったりとした大らかさ」を表現することが重要だったと思います。私も東北育ちですが、地方と都会の決定的な違いは「時間の流れ方」で、そのことは日々の生活の中に存在する「余裕」の大きさと言い換えることができます。そのような「余裕」は、「時間的」な面でも、そこに生きる人々の「精神的」な面でも、四季を通して主人公を中心とする高校生の成長を描写するという「余裕」のある撮影手法でしか表現できなかったと思います。今回はそのような「地方色」という視点で主人公の成長についての表現を掘り下げてみたいと思います。

菊池香苗は、馬術部の同級生・岡村賢治(奥村知史)と掴み合いのケンカを繰り広げますが、岡村がパートナーを事故で失って馬術部を辞めてしまうと、惜しみない同情の念を抱くようになります。学期末に帰省する二人が駅で遭遇するシーンでは香苗のそのような種類の感情が巧みに表現されています。気まずいだけの岡村に対して、香苗は屈託のない笑顔で話しかけます。「ムリして話しかけなくていいよ」という岡村の言葉に反して、香苗の表情には「ムリ」のかけらも存在しないところに香苗の純粋な優しさが現れています。大喧嘩をしてもそれを根に持たないところが「大らかさ」であり、そのような香苗の性格を引き立たせるために岡村が個人主義的で都会的な性格に設定されているのだと思います。

また、そのような香苗の性格についての表現は、物語の根幹に説得力を持たせることにも大きく貢献しています。馬術部の顧問・古賀博(柳葉敏郎)は香苗をタカラコスモスの担当にした理由を「強いて言えば気が強いから」と説明していますが、その気の強さが「優しさ」と表裏一体のものであることを最初から見抜いていたのだと思います。そもそも香苗の気の強さが端的に表れた岡村とのケンカの発端は、香苗がタカラコスモスをかばってのものだったし、一時は反目した岡村の馬術部復帰を香苗が気持ちよく迎え入れた瞬間は、香苗の精神的な成長を強く印象付けるシーンとなっていて、終盤、そのような香苗の成長がタカラコスモスの心を開いていくという展開はとても自然な流れです。タカラコスモスの心を開かせたのは、紛れもなく香苗のゆったりとした大らかな性格であり、それは本編が丹念に表現してきた「地方色」の象徴とも言えるものです。

そして、そんな香苗の性格が育まれた環境がしっかりと盛り込まれているところが、物語の根幹となる描写をさらに強固なものにしています。私は佐々部監督の『チルソクの夏』における家族の描写が強く印象に残っていて、主人公が父親にギターをプレゼントするシーンが大好きなのですが、本作においても主人公の家族の描写に佐々部監督独特の「家族愛」の表現を見出すことができます。帰省した香苗に対して父親(吹越満)は、娘が学校で危険な馬を扱っていることを「自分で選んだ道だ」と突き放しますが、それをフォローする母親(原日出子)と、実は誰よりも娘を心配している父親という描き方は、家族の本質を突くものだし、そんな両親の想いを香苗がしっかりと理解しているところが「家族の絆」ということになります。

「写真見てくれた?」
「ああ・・・」
「おやすみ」
「おやすみ・・・」

父娘の会話はこれだけです。それでも家族のつながりが伝わってくるところが巧みな演出であり、香苗の性格形成に大きな影響を与えたに違いない家族の描写が盛り込まれることによって物語の根幹にさらなる説得力が付与されています。

さて、「実話」という要素を強調するに当たっては、四季を通して高校生のリアルな成長を追いかける撮影手法が大変効果的に働いているし、なんといっても「ホンモノ」の馬の出産シーンを盛り込むことにこだわった製作者には敬服するところです。それらは本作演出のメインとなる部分ですが、このレビューではそのあたりをもう少し掘り下げて、主人公を中心とする普通の高校生の「日常」にリアリティを付与する瑣末なエピソードと演出に注目してみたいと思います。

日常表現として強く印象に残っているのが香苗と森陽子(森田彩華)が帰省のために寮を出るシーンです。冬休みの間のしばしの別れを惜しむあいさつがとても自然で、完全に雰囲気を見せるためのシーンとなっています。このシーンはメインのストーリーとは「まったく」関係がなく、日常表現に特化したシーンであり、このようなシーンを明確な意図をもってしっかりと盛り込んでいく映画というのはちょっと珍しいと思います。

「年賀状ちゃんと送ってよ。くじ付きだよ」

こういう台詞を書ける脚本家を尊敬します。製作者がこのシーンに込めた意図は高校生活における「日常」のリアリティを表現することにあったのは間違いありません。

また、そのような「日常」のリアリティはキャラクター表現の細部にも多分に見出すことができます。たとえば、古賀先生のポットの使い方とか、「いつも食べている」後輩の高橋守(小林裕吉)とか、先輩の園田帆乃夏(西原亜希)が香苗に「内緒だよ」と言いながらキャンディを差し出すところとか、キャラクターのリアルな存在感というものはこのような瑣末なエピソードと演出の積み重ねの上に成立してこそ説得力が生まれてくるものです。特に古賀先生を演じた柳葉敏郎さんはそのキャリアの中でも屈指のハマリ役で、「フィクションとしての実話表現」に大きく貢献していたと思いますが、まったく賞レースにお呼びがかからなかったのが不思議でなりません。作品そのものの評価にも同じことが言えます。

本作は、きわめて「リアルなフィクション」によって本作が強調している「実話」という要素を我々に強く意識させることに成功した秀作です。見るたびに新しい発見があって、レビューし甲斐のある作品でした。

関連記事:夕凪の街 桜の国(2010-01-14)
チルソクの夏(2009-09-09)

総合評価 ★★★★★
 物語 ★★★★★
 配役 ★★★★★
 演出 
★★★★★
 映像 ★★★★★
 音楽 ★★★★

(追記)
レンタルDVDにもメイキングが収録されていました。この映画は製作過程も含めてひとつの作品と言えるかもしれません。必見ですよ!


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コメント 8

Sho

とてもよい作品のようなのに、タイトルにもう一工夫欲しかった気がしました。「実話」「を元に」した映画としては、ちょうど「余命一ヶ月の花嫁」と、対極にあるような感じなのでしょうか?
>物語をあくまでも「フィクション」として作り込む作業が重要で、製作者には明確な「テーマ性の付与」が要求されます
これはとてもわかる気がします。
そうしないと、どうにも中途半端なものに仕上がってしまうのでしょうね。
だったらドキュメントを撮ったほうがいい。
宣伝費があまりかけられなかったのでしょうか?
それも「余命一ヶ月の花嫁」と対極的な感じですね。
by Sho (2010-06-20 12:32) 

ジャニスカ

Shoさん、nice!&コメントありがとうございます!

やっぱりこのタイトルよくないですかねー、、、、
当初は「コスモ、光の中へ」というタイトルだったそうですが、
「実話」であることを強調するために実在する高校の名前をタイトルにしたそうです。
作品を観てしまうと、むしろ当初のタイトルの方に違和感を覚えてしまうので、
これで良かったんだと思いますが、
そういうことでお客さんを呼べない、商品を手に取らない、ということであれば、
失敗だったとも言えるかもしれません。難しいところです。

宣伝費をかけられないというか、東映さんが宣伝下手なんですね、、、、
近年の邦画は、テレビ局、それもキー局のお金が入ってないと、
どうしても宣伝が地味になってしまいます。
それにしてもこの作品はひどかったですけど、、、
私もこの映画の存在を知ったのは公開が終了してからです(^^;。

それでも東映さんは年に一本はこういう「真摯な志」のある映画を作ってくれます。
撮影に時間をかける製作手法というのは、
リスクがあって映画会社としてはあんまりやりたくないと思うんですけど。
昨年で言えば、「劒岳 点の記」が東映だったし、
今年で言えば、リスクの大きい時代劇を3本も製作していて、
東映さんは地味ですけど、やることはやってる気がします。
「花のあと」は酷評しましたけど、、、(^^;

「余命一ヶ月の花嫁」は、私は映画としては認めていないので、
対極的というよりも、別次元と言った方がいいかもしれません。
映画って何かを伝えようとする「志」あって、
なおかつそれが作品から伝わってくるようじゃないとやっぱりダメですよね。

by ジャニスカ (2010-06-20 21:25) 

K-SASABE

またしても素敵なレビュー、ありがとうございます。
自分のHPでも紹介させていただきました。

タイトルは僕が決めました。
一年間お世話になった高校への感謝を込めたつもりです。何だかひらがなやカタカナのタイトルばかりの日本映画、漢字が10個も並ぶタイトルも悪くないと思いました。ただ、サブタイトル(副題)は、僕も知らないうちに付けられていました(笑)。

またこの作品の製作に東映はまったく関与していません。配給をしてくれただけです。宣伝は東北新社中心にやりました。

by K-SASABE (2010-06-24 08:27) 

ジャニスカ

佐々部監督、コメントありがとうございます!
紹介していただいて、多くの人に訪れていただけるようになり、とても喜んでいます。

このブログのレビューは、
「作り手の意思」をできるだけ汲み取って紹介することをテーマとしているつもりですが、
監督をはじめとした製作者の熱意がこんなに伝わってくる映画はそうありません。
近年の邦画はどちらかといえば、
製作者の「邪(よこしま)な意思」を感じてしまうことの方が多いですから、、、、
お世辞じゃなく、これまで見た映画の中でもかなりの上位に入る作品となりました。


>この作品の製作に東映はまったく関与していません。

そうでしたか・・・。
「劒岳 点の記」以来、東映に対する見方が変わったので、
ちょっと東映さんを褒めすぎてしまいました、、、(^^;
大手の映画会社が配給だけやっておいしいとこだけもってこうとするのは、
ちょっと寂しいですね、、、、


「日輪の遺産」楽しみにしています。今作は「絶対に!」劇場で観るつもりです。
撮影はクランクアップということで、ポスプロが始まると監督のお仕事は佳境に入りますね。
くれぐれもお体ご自愛いただき、素晴らしい映画を私たちに届けてください!
by ジャニスカ (2010-06-24 13:04) 

K-SASABE

ジャニスカさま

丁寧なご返信、ありがとうございます。
それから暴走気味に書いてしまったコメントもご配慮いただき、感謝致します。

『日輪の遺産』、やはり映画の<志>だけはしっかりと持った作品にしたいと思います。公開まで一年以上あって先の長い話ですが、ご期待ください!

またときどき、お邪魔させていただきます。

by K-SASABE (2010-06-24 23:55) 

ジャニスカ

公開は1年以上先なんですね。
映画作りというのは本当に大変な作業だと思います。
そのあたりの作り手のご苦労を念頭においてスクリーンに臨まなければとつくづく思います。

私は迷わず原作を読んでから劇場に足を運ぶつもりでいます。
エンタテインメント性が強そうな作品なので、
監督がどのような調理をするのかとても楽しみにしています。
頑張ってください!

by ジャニスカ (2010-06-25 10:02) 

げん

ジャニスカさん、こんばんは。

ようやく『三本木農業高校、馬術部』を観賞することが出来ました。
早速レビューを読ませていただいたら、何と佐々部監督がコメントされ
ているではありませんか!

タイトルについては、私は良いと思いますが・・・。
印象に残るし、途中に句読点がついているのも面白いです。

成程、オススメしていただいた通り、『お兄ちゃんの花火』と共通した
ところが有りました。
最後のコスモコールの場面に目頭が熱くなり、「お兄ちゃんへの花火」
に感動が込み上げたのを思い出しました。
お父さんが頑固で不器用で、でも最後は人目もはばからず我が子へ
愛情を解き放つのも一緒でした。

香苗の「気の強さ」の本質を、「優しさ」であるとしたジャニスカさんの
洞察に脱帽です。

顧問の古賀先生が、「馬はペットでねえ!」と叫んだシーンが印象的で
した。ジャニスカさんのように上手に文章表現できませんが、岡村の悔しさ
と古賀先生の悔しさとの魂のぶつかり合いに胸が締めつけられました。

観終わって、温かい気持ちになれた映画でした。紹介していただき、ありが
とうございました。

実は、『山桜』『チルソクの夏』『洋菓子店コアンドル』『天然コケコッコー』も
観賞済みです。
『三本木農業高校、馬術部』『チルソクの夏』と続けて佐々部監督の作品を
観たのですが、私も『チルソクの夏』の「ギターのプレゼント」のシーンが
好きです。泣きましたね。多分、主人公はお父さんの歌をずーっと聞いて
育って、お父さんの歌が大好きなんだろうなってことが伝わってきました。

長々すみません。
これから師走で慌ただしくなりますが、健康・無事故で佳い年を迎えられます
様、心よりお祈り申し上げます。
by げん (2011-11-26 00:33) 

ジャニスカ

げんさん、こんばんは。
佐々部清監督は最初に『夕凪の街 桜の国』のレビューをご自身のHPで紹介してくださいました。

私もとてもいいタイトルだと思います。
一方で「いい映画」と「お客さんが入る映画」は一致しないという現実は確実にあって、
作り手がいくら情熱を傾けても宣伝を上手にやらないと作り手も作品も報われません。
この映画の配給と宣伝は東映が担当してますが、
東映は作品そのものには出資していないので、あまり熱心にはやってくれなかったようです。
日本映画には本作のような不遇な作品がたくさんあるはずなので、
このブログを通じて隠れた良作にスポットライトを当てていけたらと思っています。

>香苗の「気の強さ」の本質を、「優しさ」であるとしたジャニスカさんの洞察に脱帽です。

これについては私の「解釈」ではなくて作り手の明確な意図が感じられる部分だと思っています。
私自身、東北で暮らしたことがあるからということもあって強く実感するのですが、
目に見えない部分での「芯の強さ」と表面的な「おおらかさ」は東北人の気質だと思います。
そのことは今度の震災でも日本中の多くの人に伝わったのではないでしょうか。
この映画の作り手は舞台となる東北や青森がどういう土地柄なのかを綿密に取材した上で、
この物語を構築していったのは間違いないと思っています。
特に香苗と香苗の父、それと古賀先生は東北人の気質が集約されていたと考えています。
げんさんが印象的だと言われている古賀先生が叫んだシーンも、
そういう作り手の意図が反映されて出来上がったシーンだと思います。
そして本文でも触れたとおり、都会的な言動を繰り返す岡村は、
そのような主人公の性格を引き立てるために作られたキャラクターだと考えられます。

もっともそういうことを初見で感じ取れたのは『チルソクの夏』『夕凪の街 桜の国』と
佐々部監督の作品をよく知っていたからということもあると思います。
言ってみればこれらは佐々部監督の作風なんですね。
『チルソクの夏』のギターをプレゼントするシーンと
本作の写真を見せるシーンを結びつけるとそのあたりのことがよくわかると思います。

これからも気軽にコメントお寄せください。
底冷えする季節になってきました。げんさんもご自愛ください。。。

by ジャニスカ (2011-11-28 20:18) 

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