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引き出しの中のラブレター [映画レビュー]

引き出しの中のラブレター [DVD]

[ DVD ]
引き出しの中のラブレター

( よしもとアール・アンド・シー / ASIN:B002ZFYIWY )

『引き出しの中のラブレター』
(2009年 松竹 119分)
監督:三城真一 脚本:藤井清美 、鈴木友海 出演:常盤貴子、林遣都、仲代達矢
          Official Wikipedia / Kinejun          

2010052201.jpg
(C) 2009 「引き出しの中のラブレター」パートナーズ 

TBS系列の制作会社ドリマックス・テレビジョン所属の三城真一監督は、近年では主にドラマプロデューサーとして活躍していますが、TBSに所属していた頃はかなりの数のテレビドラマにおいて演出も担当していました。三城監督のようにそのキャリアにおいてプロデュースと演出を満遍なくこなしているテレビマンはちょっと思い浮かびません。プロデューサーと演出を兼任できるテレビマンがそう多くないのは、至極当然のことで、プロデューサーには制作全体を俯瞰できるバランス感覚が要求されるますが、演出担当者は作家として映像の細部への配慮とこだわりが要求され、その役割は対極に位置するものとなっています。特に演出に強い作家性が求められるドラマというジャンルにおいては、分業体制が確立されており、三城監督のようなテレビマンは貴重な存在と言えます。

本作においては、三城真一監督は監督業に専念しているわけですが、プロデューサーとしての経験に基づくバランス感覚や物語と客観的に向き合う姿勢といったものが作品にきっちりと生かされていたような気がします。具体的に言えば、本作における基本的な演出手法がテレビドラマの延長線上にあるものではなく、はっきりと映画仕様になっている点を高く評価したいところです。長回しと引き絵を多用した演出手法は映画に相応しいもので、本作がテレビドラマではなく、映画でなければ成立しなかったということを証明してくれています。それでいて自身の演出家としての作家性を前面に出すようなこともなく、分をわきまえた演出姿勢には好感が持てました。これだけ秀逸な脚本の映像化で監督が自己主張することほど見苦しいものはなく、物語が持つ魅力を冷静に捉えて、それを引き出そうとする態度は三城監督のキャリアからくるものであることは想像に難くありません。

~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~ 

本作脚本の最大の特徴が巧妙な「ダマシ」にあることは、ご覧になられた方にはすぐに理解いただけると思います。私は終盤に畳み掛けるように明らかになる新事実を感嘆と感涙をもって受け入れ、ただただスクリーンに見入ってしまったのですが、今回見直してみると、その新事実に至る過程は、実に巧妙で、それでいてわかりやすい仕掛けで満ち溢れていました。

今回は露骨にネタバレしますが、本作が表現していく「心の奥に仕舞った大切な人への想い」(=引き出しの中のラブレター)は、個別のエピソードとして多様な登場人物に託されており、前半から中盤にかけてはオムニバスの様相を呈しています。まずは以下に前半部分における登場人物の相関関係を整理してみたいと思います。

  <想いを伝えられずにいる人>   <想いを伝える対象>
 (1) 稲村太郎
(タクシードライバー)
岩尾望  (離れて暮らす家族)
 (2) 松田由梨
(ブティックのオーナー)
中島知子  松田晶子
(母)
八千草薫
 (3) 中倉晃平
(医師)
竹財輝之助  粟島可奈子
(ブティックの店長)
本上まなみ
 (4) 速見恭三
(函館の漁師)
仲代達矢  速見健一
(息子)
豊原功補
 (5) 速見直樹
(函館の高校生)
林遣都  黒沢留美
(同級生)
水沢奈子
 (6) 久保田真生
(主人公)
常盤貴子  後藤大介
(恋人)
萩原聖人

確認しておきますが、これは前半部分で我々が認識可能な登場人物の関係性です。そして、この相関関係の一部を意図的にミスリードしているところが「ダマシ」であり、本作の脚本の肝とも言うべき要素となっています。このうち、(1)は基本形ともいうべきパターンで、最終的に主人公がパーソナリティを務めるラジオ番組を通じて家族の想いが伝わります。(2)についてもラジオ番組を聴いた直後に娘が素直な気持ちをもって母への感謝を表現しており、これも一つの独立したパターンとして成立しています。認識が完全に誤っているのが(3)で、明らかに我々をミスリードすべく、巧妙な脚本構成と演出をもって描写されています。

たとえば、粟島可奈子は久保田真生との会話の中で「年下」の彼と別れたことを示唆している一方で、中倉晃平は「年上」の女性との結婚を認めてもらうべく、両親を説得しており、この二人は「年上」と「年下」というキーワードで結び付けられています。さらに、中倉晃平は、可奈子の店を訪れたシーンでその優柔不断ぶりを発揮しており、我々が認識するのは二人の恋愛関係におけるごく単純なすれ違いがそこに存在しているということです。また、演出的にはこの二人のシーンが常に連結して描写されている点も見逃せません。

さて、(4)と(6)は主人公が直接関係する物語の「本筋」とも言うべきエピソードですが、物語の本筋とはもっとも遠い位置にいる(1)が終盤にかけて我々をミスリードする役割を果たしているところも大変興味深いところです。(2)も独立したパターンとして存在していたわけですが、産気づいた松田由梨を稲村太郎がタクシーで病院に運ぶシーンで(1)と(2)が結びつくと、誰もが医師である中倉晃平の病院に到着するものと勘違いしたんじゃないでしょうか。つまり、前半においてそれぞれが独立したオムニバスの様相を呈していた(1)(2)(3)が最終的に繋がるところがこの物語のもうひとつの「別筋」だと考えられるわけです。しかし、病院に到着しても中倉晃平が登場しないことから、我々が想像した予定調和の認識が少しずつ崩壊していきます。

そして、番組に届いた速見恭三の手紙が息子ではなく別離した妻に宛てたものであることが明らかになったとき、唐突に正しい相関関係が明らかになり、ラジオ番組をきっかけにして、登場人物それぞれの想いがそれぞれの相手に劇的に伝わり始めます。以下は最終的に明らかになる登場人物の相関関係です。

  <想いを伝えられずにいる人>   <想いを伝える対象>
 (1) 稲村太郎
(タクシードライバー)
岩尾望  (離れて暮らす家族)
 (2) 松田由梨
(ブティックのオーナー)
中島知子  松田晶子
(母)
八千草薫
 (3) 中倉晃平
(医師)
竹財輝之助  松田由梨
(恋人)
中島知子
 (4) 速見恭三
(函館の漁師)
仲代達矢  松田晶子
(元妻)
八千草薫
    速見健一
(息子)
豊原功補
 (5) 速見直樹
(函館の高校生)
林遣都  黒沢留美
(同級生)
水沢奈子
 (6) 久保田真生
(主人公)
常盤貴子  後藤大介
(恋人)
萩原聖人

なんと言っても、(4)が(2)に飛び火するとはまったく思いもよらなかったことですが、不思議なことに我々は瞬時にその新事実を受け入れることができてしまいます。これらの最終的な人物相関を知った上で改めて観てみると、速見恭三と松田晶子の関係を匂わす描写というと、別離した妻が東京出身だったという事実ぐらいのもので、ほぼ皆無だったと言っていいでしょう。それにもかかわらず、我々が何の違和感も感じることなく、この唐突な新事実を受け入れることができるのは、この二人の人物描写にそれまでの生き方のようなものがしっかりと刻み込まれていたからとしか言いようがありません。同時にそこには超ベテラン俳優お二人の魅力的なお芝居が大いに貢献していることは言うまでもありません。

さて、これに続いて畳み掛けるように明らかになるのが、(3)ということになりますが、(4)でこの作品が表現したかった人間関係の本質とその表現手法を目の当たりにしてしまった我々は、もはやどんな唐突な新事実も感動をもって受け入れるしかありません。もう完全に製作者の術中にはまっているのです。そして、その心地良さと言ったら未だかつて体験したことがないような種類のもので、それがエンドロール終了後のエピローグに至るまでおよそ20分間にわたって継続します。これは邦画史上屈指のラスト20分間と言っても過言ではなく、登場したすべての人たちの想いが伝わっていくエンドロールまでもが高い完成度を誇っています。

本作の脚本については、語っても語り尽くせないほどに細部にまで緻密な計算が存在しており、2度目の鑑賞がこんなに楽しい映画は初めてだし、2度目でも同じように感動できる極めて完成度の高い秀作です。まだご覧になられていない方には、自信を持ってオススメできるし、すでにご覧になられている方にも再度の鑑賞をオススメします。そして、ラストの20分間を是非とも堪能してください。

総合評価 ★★★★★
 物語 ★★★★★★(星6つ!)
 配役 ★★★★★
 演出 ★★★★★
 映像 ★★★★★

 音楽 ★★★★★


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コメント 2

げん

ジャニスカさん、こんばんは。

『引き出しの中のラブレター』観賞しました。

本当は『三本木高校、馬術部』を観たかったのですが、
最寄りのレンタル店で扱いがありませんでした(泣)

最後、「そこ来るか~。」と、手紙の相手が意外であった
事に驚きましたが、脚本上の「ダマシ」だったのですね。
まんまと気持ちよくダマされてしまいました。
物語の配点が★6つって・・・。アリなんですね。

映像も音楽も良かったです。
冒頭の、東京タワーを中心とした街並みから左にスクロ
ールしていき、函館の街並みに変わっていくシーン。
教会へ向かう途中の、遠く海を望む風景の美しさ。他々。

これまた映画館で観たかった作品でした。
月1で、主にいわゆる「ハリウッド映画」を観ている(今週
金曜に「猿の惑星」を観賞予定)のですが、ジャニスカさん
の影響で、「邦画も良いものだなぁ。」と気付かされました。

次は『夕凪の街 桜の国』を観賞します。

あ、返事はいいですよ。
ジャニスカさんの誠実さは十二分に伝わっておりますので。
他の事に貴重なお時間をお使い下さい。
by げん (2011-10-19 21:46) 

ジャニスカ

げんさん、お気遣いありがとうございます。
人に言えるほど有意義な時間の使い方をしているわけでもありませんので(^^;、全然大丈夫です。
★の数は私のルールですので、気分で6つ付けているものもあります。

私はハリウッド映画の類をほとんど観ないのですが、
娯楽性という意味では日本映画は全然太刀打ちできていないのかなという印象は持っています。
ここ数年テレビ局資本で「ハリウッド的大作映画」が果敢に作られていますけど、
この方面の映画製作は日本人には向いていないのではないかと思い始めています。
日本人にはこの『引き出しの中のラブレター』のようにアイデアやテクニックで勝負したり、
あるいは『最後の忠臣蔵』のように観る者の心の琴線に訴えるような作品の方が力を発揮できるような気がします。私はそういう日本映画にもっとスポットライトを当てていかなければならないと思っています。
『夕凪の街 桜の国』もそういう作品のひとつで、
レビューを書いた映画の中ではもっとも多くの人にご覧いただきたい作品かもしれません。
映画が訴えようとしているメッセージを積極的に汲み取ろうとしていただきたい作品です。

by ジャニスカ (2011-10-20 19:56) 

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