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誰も守ってくれない [映画レビュー]

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誰も守ってくれない スタンダード・エディション

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『誰も守ってくれない』
(2009年 東宝 118分)
監督:君塚良一 脚本:君塚良一、鈴木智 出演:佐藤浩市、志田未来
          Official / Wikipedia / Kinejun          

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(C) 2009 フジテレビジョン / 日本映画衛星放送 / 東宝

『踊る大捜査線』シリーズで、テレビドラマの脚本家としての地位を確固たるものとした君塚良一監督ですが、そのキャリアはバラエティ番組の構成作家から始まっています。ドラマの脚本家としては、明石家さんまさん主演の『心はロンリー気持ちは「…」』に始まるコメディ路線の印象が強かったし、『踊る~』におけるその独特のコメディセンスも、君塚監督のキャリアと容易に結びつくものでした。ただ、『踊る~』が画期的だったのは、警察官をサラリーマンとして捉えた点であり、それまでの「刑事ドラマ」の既成概念をぶち壊し、新しいドラマの作り方を提示しました。

現在CSで放送中の『ニュース速報は流れた』(フジテレビCS事業部)も、その着目点は斬新であるとともに極めてピンポイントなものであり、「ニュース速報」という身近でありながら、誰もその「あり方」を掘り下げようなどとは考えなかったキーワードに目を向ける姿勢には、固定観念に囚われない自由な発想と想像力を垣間見ることができます。そして、そのストーリーは、極めてピンポイントなキーワードを綿密な取材に基づいて大きく膨らませていく手法に特徴があり、その結果多少誇張される要素があっても作品はドラマチックに発展していきます。

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本作においては、まず殺人事件の加害者の家族を題材にするという発想に驚かされます。現実社会において我々が接する犯罪というものはほとんどがマスコミというフィルターを通しており、被害者に同情する立場から語られることが多いと思います。そんな中、加害者の立場が語られた著作物といえば東野圭吾氏の『手紙』が思い出されますが、さらに一歩踏み込んで「加害者の家族も被害者である」という切り口には目から鱗が落ちます。このような視点は、『ニュース速報は~』同様、マスコミの一翼を担うテレビ業界の裏方で長く活動してきた君塚監督ならではのものであり、本作のテーマについてはかなりの時間をかけて咀嚼してきたことが窺え、それだけでも説得力は十分だと思います。 

モントリオール世界映画祭で最優秀脚本賞を受賞しただけあって、ストーリーは基本的なセオリーを押さえながら展開しており、物語そのものは劇的でありながら、脚本自体は巧妙かつ冷静な仕掛けで満ち溢れています。本作には脚本執筆の基本的なハウツーが多分に盛り込まれており、映画作りを志す人には格好の教科書となりうる作品と言えるかもしれません。

まず、序盤の逮捕劇以降、加害者家族が直面するエピソードの提示の仕方は、観客を作品の世界観に一気に引き込むスピード感があり、いい意味で観客を黙らせてしまう力強さがありました。マスコミが取り囲む加害者宅といういわば密室で繰り広げられるドラマは、我々の関心を引くのに十分だったし、特に裁判所による名字変更の手続きなどは驚嘆の目で見るしかありません。この一連の描写は、加害者家族につきまとう運命がきわめて悲観的なものであることを強烈に印象付け、とりわけ加害者の妹・船村沙織(志田未来)に課せられた過酷な運命を予感させるものであり、「つかみ」としては十分すぎるものでした。

また、沙織を警護する刑事・勝浦卓美(佐藤浩市)が抱えるトラウマは、それだけでも勝浦という人物を説明するには十分ですが、それに関係する過去の事件が終盤にかけて、被害者側の心情を語る要素として存在しているところも秀逸でした。そして、勝浦の人物像を語る上で見逃せないのが家族の存在であり、冒頭に勝浦が購入した娘へのプレゼントが持つ意味は実に興味深いところです。勝浦の車中に無造作に置かれたプレゼントの箱は、本編を通じて随所にインサートされますが、その度に我々は勝浦の家族を意識します。

この物語のもうひとつの側面は、勝浦が家族こそが自分が守るべき唯一無二の存在であるということを認識していく過程を描くことにあり、このプレゼントの箱が登場する度に勝浦の家族に対する認識が微妙に変化していきます。さらに沙織にとってはこのプレゼントの箱は幸福な家庭を連想させる嫌悪の対象でしかありません。しかし、勝浦が「誰も守ってくれないんだ」言い放った沙織に対してラストに語った結論というのは、家族を守れるのは家族しかいないというものであり、それは自分の家族を意識したものであることは間違いなく、プレゼントの箱の存在がその結論に見事に結実していたと言えます。

沙織は父と兄という残された家族を守るために強くあろうと前に進む決意をしますが、勝浦が車中に置き忘れていたプレゼントの箱を沙織が感謝の気持ちとともに勝浦に手渡すシーンは、紛れもなく自分が家族を守るという沙織の決意を象徴的に表現しています。私は物語に重要な影響を与える物を「キーオブジェクト」と呼ぶことにしていますが、この「プレゼントの箱」はその役割を見事にまっとうしていたと言えます。

また、キーワードという意味では本編を通して何度か登場する「背筋が凍るな、おい」というセリフには、重いテーマが語られる中でどこかホッとする響きがあります。これは、松田龍平さん演じる刑事・三島省吾の軽妙な人物設定とともに、作品全体のトーンにバランスを生み出しており、このあたりにも脚本執筆のテクニックを感じるところです。

さて、本作の脚本の最大のみどころは、物語に大きな起伏を生み出す「裏切り」にあると思いますが、残念ながらそれが本作の欠点ともなってしまっています。序盤は、犯人宅を取り囲む報道陣の騒然とした雰囲気や佐々木蔵之介さん演じる新聞記者の狡猾さが強調して描かれており、マスコミこそが犯罪加害者の家族を追い込んでいく存在であることを印象付けています。しかし、インターネット掲示板の情報が一人歩きし始めると、いつの間にか「ネット住人」が加害者家族を追い込む存在に取って代わっています。このネット住人の暴走は、盗撮や暴行といった違法行為にまで発展していきますが、さすがにこれについてはリアリティを欠いていると言わざるをえません。

ただ、冒頭にも述べたとおり、多少の表現のデフォルメは君塚脚本の特徴であり、それによって映画作品としてのエンタテインメント性が際立っていることも事実です。映画やドラマにおける「リアリティ」に対する考え方には個人差がありますが、映画においては「面白くない真実」を愚直に盛り込んでも無意味であり、重要なのはバランス感覚だと思います。私の感覚では、「ネット住人」が姿を現して違法行為に及んだのは少々やりすぎだと感じましたが、映画製作の手法としては許容すべきものだと思います。そのあたりの受け止め方は人それぞれだとは思いますが、いづれにしろそこには君塚監督の緻密な計算が存在していることも間違いありません。

そして、序盤にマスコミを代表するポジションとして登場した佐々木蔵之介さん演じる新聞記者が、最後にネット社会の暴走についての感慨をもらします。彼が表現した「自分がキープしていたはずのボールが坂道を転げ落ちた」という比喩には、多少逸脱したリアリティをカバーしてしまうほどの力強い主張が感じられ、作品のテーマ性を見事に表現し切ったものと言えます。

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最後に、映画初主演となった志田未来ちゃんの演技力と存在感には改めて敬服いたしました。本作における役柄は、突如として特殊な状況に巻き込まれていく普通の少女ですが、彼女を取り巻く環境の変化に対するリアクションにはかなりの想像力を要したと思います。特殊な環境に対するリアクションは「非日常」的なものですが、最終的に「普通の少女」に落とし込まなければならないという意味では、「普通」であることが演じることを難しくしている役柄だったとも言えます。15歳とは思えない「凄み」すら感じさせる演技は、女優としての末恐ろしいポテンシャルを意識させるものでした。

総合評価 ★★★★
 物語 ★★★
 配役 ★★★★
 演出 ★★★
 映像 ★★★★
 音楽 ★★★★


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コメント 3

シロヤマ

ブログにコメありがとうございました!

「背筋が凍るな、オイ」は私も気に入ってしまった掛け合い(笑)
二人の妙なふざけ合いが、重い作品の中でイイカンジに緊張感を崩してくれてよかったですよね。

by シロヤマ (2009-12-26 12:27) 

ジャニスカ

シロヤマさん、ご来訪ありがとうございます!

ちょっとマニアックな視点からのレビューになってしまってお恥ずかしいのですが、
総じて言えば面白い映画でしたネ。

また遊びに来てください!


by ジャニスカ (2009-12-26 13:54) 

kawamasa

少しオーバーかも知れませんが、今の情報社会の矛盾が描かれ、問題提起していると思います。何はなくとも当事者以外の第三者の無責任な行動がこれからの社会を悪くしてしまうのではないかと危惧しています。
by kawamasa (2010-01-03 18:16) 

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