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ココニイルコト [映画レビュー]

ココニイルコト [DVD]

[ DVD ]
ココニイルコト
( バンダイビジュアル / ASIN:B00005U5LH )

『ココニイルコト』
(2001年 日本ヘラルド 112分)
監督:長澤雅彦 脚本:長澤雅彦、三澤慶子 出演:真中瞳、堺雅人
          Official Wikipedia / Kinejun          

2009111301.jpg
(C) 2001 「ココニイルコト」パートナーズ

本作は、近年では、『夜のピクニック』(2006年)や『青空のゆくえ』(2005年)といった青春ムービー路線で活躍している長澤雅彦監督のデビュー作です。長澤監督は、ほとんどの作品で脚本を兼任していて、巧みな台詞回しで表現する雰囲気や、瑣末なエピソードに何気なく盛り込む伏線などから、名実ともに「脚本も書ける映画監督」ということで間違いないと思います。

私は、本作をたまたまタイムリーで見て以来、長澤監督の作品は欠かさず見るようになりました。アクションからサスペンスまで幅広く手がけていますが、本作は、社会人になったばかりの等身大の女の子の成長を描いた感情移入しやすい作品となっており、長澤監督といえば、いまだにまず本作を思い出してしまいます。

本作の面白いところは、舞台を大阪としている点であり、演出上もきわめて重要な要素となっています。東京で既婚の上司との恋愛に敗れた主人公が転勤した先が大阪であり、関西の独特の雰囲気が作品全体を通じて重要な役割を果たしていきます。

転勤初日、相葉志乃(真中瞳)は、広告企画だった部署が営業に変わってしまったことを知り、仕事へのモチベーションが完全に失われます。朝礼で繰り広げられる関西弁は、主人公の境遇をあざ笑うような「大阪のノリ」であり、その後の山田部長(中村育二)の「大阪では営業が一番クリエイティブなんじゃ」という言葉が志乃の気持ちにとどめを刺します。

しかし、このシーンで前野(堺雅人)が登場すると、その関西弁に負の要素を笑いに変えてしまう大阪ならではのいい意味での「ゆるさ」が表現され、関西弁というものが受け取る側の気持ち次第でポジティブにもネガティブにも取れる独特の響きを持っていることを感じさせてくれます。そのことが前野の「ま、ええのとちゃいますか」という台詞につながると、今の志乃が必要としている要素が、間違いなくこの大阪人が持つ「ゆるさ」であることが確認できます。

前野との関わりの中で志乃の心も次第にほぐれていきますが、それと同時に志乃を取り巻く周囲の人間関係にも関西弁を通じて「優しさ」のようなものが感じられてくるのは、志乃および我々観客の気持ちが前向きなものへと変化しつつあることの証左だったと思います。山田部長の言葉も冒頭と同様、上司という立場から発せられる言葉であることに変わりがないのに、次第に温かみを感じるようになります。

もっとも象徴的なのが、新人いびりをしていた同僚の渡部あつこ(黒坂真美)の変貌ぶりだったと思います。同じ男と不倫していたことが発覚することで志乃と関係が急速に縮まりますが、その前後での関西弁が表現する雰囲気の変貌ぶりもまたとてもわかりやすいものであり、周囲の変化と志乃の気持ちの変化をイコールで結び付けてくれています。

これらのことは気持ちの持ちようで環境は変えられるということを表現しており、それはすなわち「こうしたいと願うことが何かを変えるきっかけである」という本作のテーマそのものであり、そのことを表現するには、大阪という街、人、言葉、ノリが醸し出す雰囲気が不可欠だったような気がします。

そして、ストーリー上は、「競艇」が重要な要素となっており、志乃の気持ちの変化をもっとも的確に印象付ける役割を果たすとともに物語の重要な伏線ともなっています。序盤、志乃はすべてを終わらせるつもりで、競艇で手切れ金の残り全額を一番人気がない組み合わせに投じますが、これが的中してしまい、ホテルに1年以上滞在できてしまうことに失望します。

ギャンブルというあらゆる人たちの「願い」が渦巻く場で、ひとりだけ「願わない」という構図に志乃の「生き方」が現れています。それが終盤、前野が競艇に自分の手術を賭けるという提案をすると、序盤のシーンとは打って変わって、競艇場の志乃は「願い」を込めて熱い声援を送るのです。この賭けは外れてしまいますが、外れた舟券に序盤に的中させた舟券を重ねる演出は見事でした。細かいところですが、額面が同じ33万円だったというのも見逃せません。

他にも「プラネタリウム」や「阪急ブレーブス」、「カエルの置物」といったキーワードが随所で各々の役割を見事に果たしており、かなりレベルの高い脚本だったと思います。また、関西弁による丁々発止のやり取りなども、決してとってつけたようなものではなく、瑣末な会話の中に何らかの意味が詰まっており、かなりの推敲を重ねたことがうかがえます。

そして、今や映画界で大活躍の堺雅人さんの非凡な演技力は必見です。私は堺雅人さんを本作で初めて知ったのですが、実際当時はまだまだ露出が少なく、知名度もありませんでした。当時の私は、その「大阪人」としての存在感から、本作において重要な要素となっている関西弁が巧みな俳優さんをキャスティングしたものだと勝手に解釈していましたが、宮崎県出身の堺さんにとってはゼロからの「大阪人」という役作りだったわけで、改めて非凡な俳優さんであることを感じずにはいられません。

「ま、ええのとちゃいますか」

この言葉が持つ響きとその表現力は、本作の成功に多大に貢献しています。


参考:長澤雅彦監督が手がけた作品
 『突然炎のごとく』(プロデュース 1994年 井筒和幸監督)
 『PiCNiC』(プロデュース 1994年 日本ヘラルド 岩井俊二監督)
 『undo』(プロデュース 1994年 ヘラルド・エース 岩井俊二監督)
 『Love Letter』(プロデュース 1995年 ヘラルド・エース 岩井俊二監督)
 『はつ恋』(脚本 2000年 東映 篠原哲雄監督)
 『ココニイルコト』(監督・脚本 2001年 日本ヘラルド)
 『ソウル』(監督 2002年 東宝)
 『卒業』(監督・脚本 2003年 東宝)
 『13階段』(監督 2003年 東宝)
 『青空のゆくえ(監督・脚本 2005年 ムービーアイ)
 『夜のピクニック』(監督・脚本 2006年 ムービーアイ)
 『天国はまだ遠く』(監督・脚本 2008年 東京テアトル)

総合評価 ★★★★
 物語 ★★★★★
 配役 ★★★
 演出 ★★★
 映像 
★★★★
 音楽 ★★★★


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コメント 4

よーじっく

こんにちはぁ、(^_^)/

私は、テレビで見たんですが
かなり印象に残っている作品です。

『夜のピクニック』は好きな作品でした。

『青空のゆくえ』が未見なので
レンタルで探してみたいと思います。

ご訪問とnice!、ありがとうございます。
by よーじっく (2009-11-14 15:51) 

ジャニスカ

こちらこそご訪問ありがとうございます!
長澤監督は大好きな映画監督のひとりです。
『13階段』などは打って変わって重厚な演出が光ってます。こちらもオススメです!

『青空のゆくえ』のレビューも書いてますので、観ましたらまたお立ち寄りください。
よーじっくさんの感想も楽しみにしています。
by ジャニスカ (2009-11-14 20:44) 

Sho

この映画は、ずーっと前から気になっていて、レンタルやさんで何度も手にとっては棚に戻しを繰り返していました。
特に、仕事が苦しくてたまらなかったとき、仕事を辞めようかまよったとき、特に見たくなりました。
ぜひ見てみたくなりました。
「卒業」のパッケージも拝見しましたが、この真中瞳も内山理名も、とても美しく撮れていましたね。
by Sho (2010-06-06 11:16) 

ジャニスカ

Shoさん、こんにちは。コメントありがとうございます!

そうでしたか、これを機に是非ご覧ください!
すでに観ている人間から言わせれば、
「ココニイルコト」と「卒業」の2本立てなんてホントにうらやましいです。
まだ観てない人だけの特権ですからネ(^^)。

>仕事が苦しくてたまらなかったとき、仕事を辞めようかまよったとき、特に見たくなりました

まさにそういう方のための作品だと思いますよ。絶対に気に入ると思います。
堺雅人さんに勇気をもらってください(^^)。


そうですね、パッケージのイメージと作品の質は一致していると思います。
長澤雅彦監督は女優さんをとても魅力的に撮ることができる映画監督だと思います。
「天使の恋」との関連で言わせてもらえば、
女優さんに派手なメイクアップやキレイな衣装を着させることが監督の仕事だと思ったら大間違いですよね。
監督にはあくまでも「女優さんの魅力を引き出す」という謙虚な姿勢が必要だと思います。
「ココニイルコト」は真中瞳ちゃんのナチュラルな等身大の魅力にあふれた作品です。
決してお芝居がズバ抜けて巧いというわけじゃないんですけどね。
そこは監督の腕だと思うわけです。

このブログを通じて作品と人を結び付けられたとしたら、こんなにウレシイことはありません(^^)。
今度は良質の作品の前向きな感想を共有できたらいいですね。。。

「卒業」については改めてこの映画レビューで取り上げてみる気になっています。
そのときはまた遊びに来てください!
by ジャニスカ (2010-06-06 16:42) 

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