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幸福な食卓 [映画レビュー]

幸福な食卓 プレミアム・エディション [DVD]

[ DVD ]
幸福な食卓 プレミアム・エディション
( ジェネオン エンタテインメント / ASIN:B000PIT0S0 )

『 幸福な食卓 』
( 2007年 松竹 108分 )
監督:小松隆志 脚本:長谷川康夫 出演:北乃きい、勝地涼、平岡祐太、羽場裕一、石田ゆり子
          Official / Wikipedia / Kinejun          

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(C)「幸福な食卓」ASSOCIATES

「人間は他者の目を通して自分の存在を知る」という文化人類学上の定義がありますが、本作の主人公・佐和子(北乃きい)は、まだ自分が何たるかを知らないイノセントな部分がひとつの魅力であり、他者、とりわけ勉学(勝地涼)の目を通して自分自身を知り、成長していく姿はまさ「大人の階段を登る少女だったと思います。したがって、本作演出上のテーマは、佐和子の他意のない純粋な無邪気さを表現することであり、ストーリー上のテーマは彼女の精神的な成長を「家族の食卓」を通して描いていくことだったと思います。

そんな佐和子の中学生の女の子ならではの純粋さが表現されたシーンをひとつ紹介します。転校してきた勉学が教科書を忘れたふりをして、佐和子の人間性を試すシーンは、まさに佐和子のイノセントなキャラクターをつぶさに表現するものでした。勉学のこの行為は、彼のしたたかな処世術を垣間見ることができて、これもまた彼のキャラクターを的確に表現していると言えますが、単に「人が悪い」とも言えます。

しかし、佐和子はそんな勉学に何の疑いもなく、そうすることが当たり前のように教科書を共有することを提案します。勉学はそれで十分とばかりに自分の教科書を出すわけですが、このときの北乃きいちゃんの目が優しいことといったら、もうこれは「純粋」としか言いようがありません。勉学が臆することなく「お前を試した」と言っても、「ヘぇ、そうなんだ」という目が優しさを失うことはなく、この彼女の目の表現は、「イノセント」以外の何物でもありませんでした。そして、勉学は「お前は優しい」から佐和子を目標に勉強すると公言しますが、ここでも、「へぇ、そうなんだ」という優しい目で勉学を見つめます。

その後も、佐和子のことを客観的に見る勉学の視点が、随所に盛り込まれていきます。クラス委員になった佐和子にクラスをまとめる秘策を伝授するくだりも、佐和子を冷静に見つめる勉学の視点が元になっているし、勉学が新聞配達のアルバイトをするのも佐和子の性格を分析した上でのことでした。そして、佐和子が嫌いな給食のさばを食べてあげていた勉学が、自分もさばが嫌いだったことを明らかにして、「お前は自分の知らないところで周囲に守られている」と分析する点はもっとも的確でした。しかし、当の佐和子にはそんな勉学の分析がいまひとつピンときません。

終盤、それらの勉学の佐和子についての分析が伏線となって、勉学の死後、暗く沈んだ佐和子の周囲に結実していきます。母親(石田ゆり子)は、佐和子のために家に戻ろうとするし、兄(平岡祐太)は恋人の力を借りて佐和子を慰めようとします。そして、父親を辞めていた父(羽場祐一)が父親に戻ることを表明したのは、紛れもなく佐和子のためだったに違いありません。そして、家族がそれらの「優しさ」を表現する場は食卓であり、佐和子がその優しさに答えたのも食卓でした。 

そして、勉学の弟が不器用でも彼なりの感謝の言葉を佐和子にかけるところで、勉学の言葉を思い出し、初めて自分の存在が何たるかという「自己」を認識します。周囲から守られるに値する「自らの価値」に気がついた佐和子は、悲しみを乗り越えて前向きに歩き始めるのです。

また、兄の恋人になったヨシコ(さくら)の存在もとても興味深いものでした。彼女は、佐和子に「他人じゃないとわからないことがある」という新しい価値観を直接的に提示します。その時点では佐和子はそれを自分のこととして考えることはできませんでしたが、勉学と同様にヨシコの存在も佐和子にとっては「自己認識」のきっかけだったのです。

本作はどちらかというと難解な作品かもしれませんが、すべてのシーンになんらかの深い意味が込められた秀逸な脚本であり、観るたびに新しい発見や解釈ができる奥深い作品だと思います。父親似の兄と母親似の佐和子という図式も興味深いし、佐和子の兄に対する感情やその兄が農業をしている理由を掘り下げてみるのも面白いと思います。

個人的には、先にも触れた北乃きいちゃんの「優しい目」に最後まで釘付けでした。お芝居であんなに純真無垢な「目」をできる女優さんは他にはちょっと思い浮かびません。本ブログでも再三触れていますが、私は、女優さんの演技力は「目」の表現力によるところが大きいと思っているので、将来を最も期待する女優さんのひとりになりました。これからの彼女がどんなお芝居を見せてくれるのか目が離せません。(→記事:ラブファイト

総合評価 ★★★★
 物語 ★★★
 配役 ★★★
 演出 
★★★
 映像 
★★★
 音楽 ★★★


nice!(1)  コメント(2) 
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コメント 2

ばてぃ

ブログにコメントいただきありがとうございました!
自分の拙いレビューと違って、ジャニスカさんのブログはすごく参考になります。
また遊びに来させて頂きますのでよろしくお願いします!
by ばてぃ (2009-11-09 20:43) 

ジャニスカ

コメントありがとうございます!
「幸福な食卓」はどこか後を引く、不思議な魅力がある映画でした。
いまだに心の奥で反芻しているようなところがあります。
もう一度観たら、また違った感想が生まれそうです。

映画のレビューは「変わった切り口」を心がけて書いています。
また遊びに来てください!

by ジャニスカ (2009-11-10 17:39) 

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