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山桜 [映画レビュー]

山桜 [DVD]

[ DVD ]
山桜
( バンダイビジュアル / ASIN:B001FXW0FE )

『山桜』
(2008年 東京テアトル)
監督:篠原哲雄 脚本:飯田健三郎、長谷川康夫 出演:田中麗奈、東山紀之
          Official Wikipedia / Kinejun           

2009092701.jpg
(C) 「山桜」製作委員会

藤沢周平作品の映像化といえば、山田洋次監督の3部作が有名ですが、藤沢文学の最高峰といわれる『蝉しぐれ』の映像化に熱心に取り組んだ黒土三男監督には敬意を表さなければなりません。そして、本作の製作に当たっても、原作の世界観を損なわずに忠実に表現するという至極当たり前でありながら、もっとも困難な条件に挑戦し、見事にやり遂げたスタッフには敬意を表さずにはいられません。


参考:藤沢周平作品の映像化
< 映画 >
 『たそがれ清兵衛』(2002年 松竹 山田洋次監督) ※「たそがれ清兵衛」「祝い人助八」「竹光始末」
 『隠し剣 鬼の爪』(2004年 松竹 山田洋次監督) ※「隠し剣鬼ノ爪」「雪明かり」
 『蝉しぐれ』(2005年 東宝 黒土三男監督)
 『武士の一分』(2006年 松竹 山田洋次監督) ※「盲目剣谺返し」
 『花のあと』(2010年 東映 中西健二監督)
 『必死剣鳥刺し』(2010年 東映 平山秀幸監督)
< テレビドラマ > (抜粋)
 『蝉しぐれ』(2002年 NHK)
 『秘太刀馬の骨』(2005年 NHK)
 『よろずや平四郎活人剣』(2007年 テレビ東京)
 『風の果て』(2007年 NHK)
 『花の誇り』(2008年 NHK) ※「榎屋敷宵の春月」

藤沢文学と言うと、江戸時代の武士の剣を巡る作品が有名ですが、本作のように武家の女性にスポットライトを当てた作品にも素晴らしいものがたくさんあります。本作の原作は約20ページの短編小説ですが、藤沢文学の特徴的な要素が凝縮された作品とも言えるもので、行間を想像力で埋める作業の中で、我々の目頭を熱くさせてくれる作品です。私は、初見で涙を落としました。

藤沢作品の特徴は、武家の生活や風習を通して彼らの日常を切り取るとともに、武士が守るべき伝統や誇りを描くことによって武家に生きる人々の人生を浮き彫りにしていくところです。 本作において描かれるのは、ある武家の女性の生き方であり、そのためにはまず当時の武家の風俗や女性の立場を表現するシーンが必要になってきます。

物語は、おばの墓参りから始まりますが、このおばの存在が当時の武家社会における女性の立場を象徴的に表現しています。武家の女性というのは他家に嫁げないと「やっかいおば」と言って実家で肩身の狭い思いをしながら生きていかなければなりません。主人公の磯村野江(田中麗奈)は、おばが嫁げなかったことに漠然とした同情の念を持っています。

そんな野江は、前夫に先立たれた後、家格が下の家に嫁ぎますが、「出戻り」と呼ばれながら不遇の生活を送ります。手塚の一件で離縁された野江は「やっかいおば」になったとしても、もう嫁入ることはないと心に決めます。そんな野江の気持ちを変えたのはおばの存在でした。

おばが嫁がなかった理由を母に尋ねると、縁談はあったが婚約者が病に倒れ、それ以来一人身であったことを聞きます。このとき野江は初めて、想う人がいたおばは決して不遇だったわけでないことを知り、2度の結婚で自分に足りなかったものが何だったのかを悟るのです。

このおばの存在は、物語において武家の女性が置かれている立場を暗示するとともに、主人公が自分の生き方を見つめ直すきっかけを提示するという二重の役割を果たしており、物語の筋道を見事に照らしてくれています。

また、冒頭に野江と手塚弥一郎(東山紀之)が出会う重要かつ本作を象徴するシーンがありますが、当時の武家の男女の距離感がとても自然に描かれています。普段我々がイメージする桜とは異なる山桜の美しさも見事でしたが、ふたりが発する言葉はおそらく考えつくされたもので、言葉の中に二人の立場が表出するという日本語ならではの美しさが表現されているような気がしました。これ以後、手塚の台詞が一言もないこともこのシーンを鮮烈に印象付けています。

「手折(たお)って進ぜよう。このあたりでよろしいか」
「かような場所でお目にかかるとは思わなんだ。あの頃とまるでお変わりない」
「今は、お幸せでござろうな」 
「左様か。案じておったが、それはなにより」

さて、本作は、主人公の気持ちの変化と、彼女を取り巻く環境の変化を四季の移ろいに託して表現をしていきますが、引き続きそのあたりの演出手法について掘り下げてみたいと思います。

篠原哲雄監督は、丁寧な人物描写に定評がある監督で、派手さはありませんが90年代からコンスタントに堅実な良作を送り出しています。それでも時代劇を撮る篠原監督というのはイメージできませんでしたが、本作を観てしまえば、篠原監督にとって新境地を開拓したと言える作品となりました。

四季の移ろいに人の想いの変化を重ねて表現するというのは、古代以来の和歌や京生菓子などに見られるように日本人独特の感性だと思います。『おくりびと』(2008年 松竹)に代表される日本の文化をテーマとした映画が海外から高い評価を得ていますが、私はこの四季の感覚だけは外国人にはわかりにくいのではないかと思っています。というよりそう簡単に外国人に理解して欲しくない日本人が誇りとすべきアイデンティティだと考えています。

エドワード・ズウィック監督の『ラストサムライ』(2003年)における「散る桜」と「武士の時代の終焉」を重ねる演出には驚かされましたが、それは「瞬間」の切り取りでしかなかったし、日本の自然描写(実際には見せかけの)はありましたが、四季を描くことまではしていなかったことにはなんだか安心したものです。

本作においても、山桜が物語上の鍵となっているだけあって、当然四季の描写を織り込んでいくことは重要であり、庄内地方の実景ショットが多用されています。

雪化粧した山々→雪解け→おばの墓参→山桜

という流れが冒頭とラストで繰り返されます。

2009092801.jpg先ほども触れたように、おばの生き方に触れた野江(田中麗奈)は、自らの生き方に前向きな気持ちを見出します。1年ぶりにあの山桜の枝をたずさえて向かったのは、手塚(東山紀之)の実家でした。私は、富司純子さん演じる手塚の母・志津が登場した瞬間からエンディングまで涙が止まりませんでした。

野江は志津との会話の中で自分の居場所がこの場所だったことを悟るわけですが、我々は一足先にそのことを感じ取ってしまいます。それは玄関先から見える手塚の家のたたずまいの美しさが、そこに住んでいる人の人となりを十二分に表現しているからだと思います。掃除が行き届いた塵ひとつない玄関と廊下に明るい日差しが差し込んでいます。その家の雰囲気とそこに登場する富司純子さんの美しいたたずまいが結びついた瞬間に我々はすべてを察してしまうという見事な演出でした。

そこに一青窈さんによる主題歌「栞」(しおり)で追い討ちをかけられれば、涙はとまりません。春先の田園風景に大名行列というラストカットからは、もはや誰もがただひとつの結末を想像するしかありません。

また、細かいところですが、手塚の家紋が桜の花弁を意匠としたもので、暗い牢の中にいる手塚を映すとき、羽織に染め抜かれたその家紋が際立って見えるのが不思議でした。獄中の手塚にとっての希望のよりどころを象徴しているようです。そして、野江が手塚の家を訪ねるときに着ている着物にも桜の花びらが染め抜かれていたところに、我々は二人の想いの繋がりを見ます。どこまでも「山桜」に想いを重ねる素晴らしい演出でした。

総合評価 ★★★★★
 物語 ★★★★★
 配役 
★★★★★
 演出 ★★★★★
 映像 ★★★★★
 音楽 ★★★★★


参考:篠原哲雄監督の主な作品
 『月とキャベツ』(1996年 エースピクチャーズ 山崎まさよし主演)
 『きみのためにできること』(1999年 日活 柏原崇主演)
 『はつ恋』(2000年 東映 田中麗奈主演)
 『命』(2002年 東映 江角マキ子主演)
 『天国の本屋~恋火』(2004年 松竹 竹内結子主演)
 『深呼吸の必要』(2004年 日本ヘラルド=松竹 香里奈主演)
 『地下鉄に乗って』(2006年 ギャガ=松竹 堤真一主演)
 『真夏のオリオン』(2009年 東宝 玉木宏主演)

関連記事 : 花のあと(2010-04-09)


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