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天然コケッコー [映画レビュー]

天然コケッコー [DVD]

[ DVD ]
天然コケッコー
( 角川エンタテインメント / ASIN:B000WGUSS6 )

『天然コケッコー』
(2007年 アスミック・エース 121分)
監督:山下敦弘 脚本:渡辺あや 出演:夏帆、岡田将生
          Official Wikipedia / Kinejun           

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(C) 2007 「天然コケッコー」製作委員会

今まで観たことのないタイプの映画でした。少なくともロードショー作品としては珍しい種類の映画だと思いますが、作り手に何の迷いもなく、確固たる信念の元に作られた作品であることが伝わってきました。

なんにもドラマチックなことが起こらない代わりに、田舎の日常に起こる瑣末な出来事がたくさん描かれています。東京からの転校生、お祭り、バレンタインデー、修学旅行・・・どれも誰もが当たり前のように経験する出来事ですが、感受性が豊かな主人公の中学生・右田そよ(夏帆)にとってはそのすべてが刺激的なイベントなのです。

本作は、純粋で天然で田舎育ちのそよが何気ない日常に対して見せる様々なリアクションが見所となっています。したがって本作の成功は主演女優の実力によるところが大きいといえるわけですが、心の底から夏帆ちゃんでよかったなぁと思ってしまいました。彼女でなければ成立しなかった作品です。夏帆ちゃんの演技力が光ったシーンをひとつ紹介しましょう。

父親(佐藤浩市)の浮気現場を見てしまったそよは、あまりのショックに食欲がなくなってしまいます。家族団らんの夕食も憂鬱で、もっとも気を使う相手である母親(夏川結衣)に呼ばれて渋々食卓に顔を出します。すると父親に電話が掛かってきて、弟が「浮気相手じゃないの」などと軽口を叩いてそよを青ざめさせます。しかし、「たまにはええよ、母ちゃんには父ちゃんの愛情は重すぎるけぇ」という母親の切り返しにそよはひとまずホッとするのでした。

注目すべきはこの間、そよの台詞はひとつもありません。次々と押し寄せる気持ちの波を彼女は表情の微妙な変化だけで表現していきます。すごく高いレベルの演技が要求されるシーンだったと思います。私は、女優さんの最も重要な要素はどれだけ豊かな表情のバリエーションを持っているかだと思っていますが、彼女の表情、とりわけ「目」の演技力に大女優の片鱗を見た気がします。

また、修学旅行で東京に来たそよは大都会の雰囲気に気圧(けお)されて貧血で倒れてしまいますが、そのときの真っ青な顔といったらものすごいリアルでした。これは気持ちの表現以外の部分ですが、非凡な表現力だと思います。

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本作のもうひとつの特徴は、作り手が本編を通じてこの物語の結末を示唆しないところで、不思議なことに観る側も要求しません。ラブストーリーなら二人の関係がどうなるのか、サスペンスなら犯人は誰か、スポ根なら試合に勝つのか、というように、作り手はある物語の結論に向かって最も効果的な演出を施していくわけですが、例えば、結末に向かって伏線を張るといったような小細工は、本作には一切ありません。観る側も物語がどこに向かっているのかがわからないと気持ち悪いものですが、いつしか我々も主人公と同様、こんな日常がずっと続けばいいのに、と思っているのです。

そのことが監督の狙いだったことがラストシーンで確認できました。ゆったりとした日常を過ごしてきたそよにもいよいよ卒業という大きな変化が訪れます。この「変化」を監督は思い切った演出で見せていきます。卒業から入学までをワンカットで撮るというと、想像できないかもしれませんが、実に巧妙に仕組まれたカットで見事に表現しています。

卒業の日、9年間過ごした教室に名残惜しくお別れを告げるそよの姿から、ゆっくりとカメラはパンしていきます。ライティングで時間経過を演出しながら、カメラが行き着く先は、真新しい高校の制服を着て、窓の外から教室の中を懐かしそうに見つめるそよの姿です。そんなそよの姿を見ると、あの「日常」が懐かしいものに思えてきます。そして、子供たちがそよに声をかけると、そこには村の人たちがみんな集まっていて、おもむろにバーベキュー大会が始まります。

実は、そよの制服が変わって、大沢君が坊主頭になったこと以外、卒業しても「日常」には何の変化もなかったのです。そのことに我々は、思わずホッとしてしまうのです。そして、エンドロールで映し出されるのは、変わらない「日常」に一番ホッとしているに違いない、楽しそうなそよの姿でした。作り手、主人公、観客の気持ち、すべてがシンクロする見事なラストでした。

このラストカット、ワンカットと書きましたが、現実的には我々にはわからないように切ってあるんだろうなぁ・・・と心の片隅で思いつつも、このカットにかける監督の意気込みを信じたい気持ちです。ワンカットなら夏帆ちゃんが早着替えしていることになるわけですが・・・。

それにしても、石見弁っていいですねぇ。。。

 

総合評価 ★★★★★
 物語 ★★★★★
 配役 ★★★★★
 演出 ★★★★★
 映像 ★★★★
 音楽 ★★★★


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むーにゃ

ジャニスカさん、こんばんは。
以前、BSだったと思うのですが、放送されていたのを観ました。その時の、私の感想は、何も事件が起こらない、いったい何を描きたかったのだろう?というものでした。

ジャニスカさんが、この映画に対して高評価をつけていたので、レビューも読ませていただきました。なるほど、何も起こらない日常を描きたかったのか、と得心がいきました。そう思って、思い起こすと、夏帆ちゃんの演技は確かに素晴らしかったです。ほんの些細なことにも一喜一憂する姿をごく自然に演じていました。共演の岡田将生君の演技も良かったと思います。彼は最近はテレビドラマに出演する機会が増えて一気にメジャーになりましたが、初期の頃の映画での演技のほうが際立って良かったように思います。

でも、こういう種類の映画は一般受けはしないのではないでしょうか?作る側はかなりの冒険ですよね?それを承知で作ったのだとしたら、勇気ありますね。いい作品というのは、時間をかけてじっくりと浸透していくものなのかもしれませんね。実際、この作品を観終わった直後の私の感想は前述の通りで、「あれ?終わっちゃった」というものでしたが、その後ふと思い出す(岡田将生君がテレビドラマに出ていたりして)時があって、なんとなくほのぼのとした気持ちになるんですよね。

刺激的なその場限りで忘れ去られてしまうような作品より、折に触れ思い出し懐かしむことのできる作品の方が価値があるということですね。
今回は、映画を楽しむ基準というものを教えていただいた気がします。有難うございました。次回からは、映画、ドラマの展開ばかりを気にかけるのではなく、じっくりと、いま描かれているものを感じて楽しもうと思います。では、また。
by むーにゃ (2011-01-28 22:46) 

ジャニスカ

むーにゃさん、こんばんは~。
そうですねー、この映画は何かを期待して観ると肩透かしを食らいますよね。
私も序盤は主人公二人の恋の話かとも思ったのですが、
神社の境内でコートを賭けて二人がキスをするシーンを観てそれが違うことを悟りました。
この作品は特に、作り手の意図を汲み取る作業なくして、
表現されているテーマに近づくことは難しいのかもしれません。
いい映画というものは一つ一つのシーンに必ず意味があります。
それぞれのシーンが何のために存在しているのか感じ取ろうとすることで、
映画というものは本当に味わい深いものになると思います。

私もこの映画はかなり思い切ったことをしていると思います。
ただ、ことこの映画に関して言えば、それは純粋に「映画作品として」という意味であって、必ずしも興行的に冒険したということはないのではないかと考えています。というのもこの映画の制作費を想像すると、かなりの低予算で作られているのは間違いなく、例えば『SPACE BATTLESHIP ヤマト』のように、まずはロードショーで制作費を回収しなければならないような種類の映画ではないからです。

この映画を製作したアスミック・エースという映画会社は、昔から派手さはないけれど、堅実な作品をたくさん送り出してきた日本映画の良心とも言うべき存在で、この『天然コケッコー』が製作された理由のひとつには「新しい才能の発掘」があったのではないかと勝手に想像しています。主演の夏帆ちゃんと岡田将生くんがこの作品から大きく飛躍していったのは周知のとおりですし、なにより山下敦弘監督という若い才能にメジャー作品を撮るチャンスを与え、一定の成功を収めたことは日本映画界にとってとても大きな意味があったのではないかと思っています。私自身もこの作品で初めて山下監督のお名前を知りました。山下監督の『リンダリンダリンダ』も是非ご覧になってみてください。こちらもそのうちBS-Japanで放映されると思います。

それと岡田将生くんは、非常にクレバーな俳優さんで、
映画で求められるお芝居とテレビドラマで求められるお芝居がまったく違うことを熟知していて、
はっきり言って、テレビドラマにおける俳優として彼の存在はノーカウントにするべきだと思います。
映画では今も昔も変わらず良質のお芝居を提供していると思います。

>刺激的なその場限りで忘れ去られてしまうような作品より、折に触れ思い出し懐かしむことのできる作品の方が価値があるということですね。

まったくおっしゃるとおりです。
私はドラマもそうですが、いい映画ほど何度も繰り返して観ることはありません。
いい作品ほど一つ一つのシーンがしっかりと心に刻まれているものですから、
日常生活のふとした瞬間にその作品のことを思い出せればそれで十分だと思います。
というわけで、私は『流れ星』もまだ見直すことができていないんですけど、
一つ一つのシーンはしっかりと思い出せますから、
すぐに見直さなければならないものではないのかなとも思い始めています。

またのコメントお待ちしています!(^^)

by ジャニスカ (2011-01-29 19:03) 

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