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チルソクの夏 [映画レビュー]

チルソクの夏 [DVD] [ DVD ]
チルソクの夏
( 角川エンタテインメント / ASIN: B001DSSKN2 )

『 チルソクの夏 』
( 2004年 プレノンアッシュ 114分 )
脚本・監督:佐々部清 出演:水谷妃里、上野樹里、桂亜沙美、三村恭代

          Official / Wikipedia / allcinema          

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(C)2003 「チルソクの夏」製作委員会
 

「チルソク」は、韓国語で「七夕」を意味します。本作は七夕をモチーフにした「距離と時間を隔てた恋」というきわめて普遍的でやりつくされたテーマを扱っていながら、まったくわざとらしさや嘘っぽさを感じさせず、誰もが経験した青春時代の淡い恋をさわやかに描いています。

この「ロミオとジュリエット」的な、やりようによってはクサさを感じさせてしまう物語に説得力を持たせるためには、舞台設定が重要でした。二人を隔てる要素は、「日本と韓国の物理的距離」と「歴史的事実を背景とした精神的な壁」のふたつであり、これらが成立する舞台として「1977年の山口県下関」という設定は絶妙としか言いようがありません。

山口県下関市は、韓国の釜山市と姉妹都市関係にあり、両都市交流の陸上競技会は実際に開催されていたものです。そして、「1977年」というと、太平洋戦争から30年余り、朝鮮戦争からは25年、まだまだ「戦後」の色が褪せていない時代。でも、本作で描かれる高校生たちは高度経済成長期に生まれ、「戦後」を実感する機会は格段に減っており、親の世代との時代感覚のギャップはもっとも大きかった世代かもしれません。

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(C)2003 「チルソクの夏」製作委員会

本作の主人公・郁子(水谷妃里)も「朝鮮人」との文通を父親(山本譲二)に咎められてもその理由が理解できないし、父親もはっきりとその理由を言えないこところが、この「精神的な壁」の高さを明らかにしています。その壁は文通相手のアン君(淳評)にもまったく同じくして立ちはだかります。

本作の成功は、そんな「時代」を適確に描写したことにあったと思います。そのことは時代を象徴するピンクレディやツイストなどの曲が劇中に頻繁に登場することやテーマソングでもあるイルカの「なごり雪」が物語を効果的に演出していることからもわかると思います。

そういった時代演出の中で、二人の数少ない会話の中に表出した考え方の相違が時代を象徴するようなリアルなものだったのが印象的でした。アン君の夢は父のような外交官になることで、南北朝鮮の統一のために働きたいと郁子に語ります。自分は日々の瑣末な出来事に一喜一憂しているだけだと言う郁子に、彼はそれは日本が平和な証拠で、韓国も早くそうならなければならないと語ります。

日本は戦前の軍国主義を否定する形で高度経済成長期を突っ走り、経済大国になったのに対して、その間、韓国は南北を分断する朝鮮戦争を経験し、当時はまだ(今現在もですが)休戦しているに過ぎない戦時体制にあったのです。アン君が戦時体制下の夜間外出禁止令(戒厳令)を犯してまで郁子に逢いに来るというのも、そのような時代背景を反映したものであり、物語の随所に「時代」というものを見事に織り込んでいます。そのような時代というバックボーンがあればこそ、我々は二人の恋を応援し、見守ることができるのだと思います。

話は変わりますが、主人公の友人役で出演している上野樹里ちゃんは、当時まだ無名の女優さんでしたが、その演技力は本作においても卓越したものでした。「おくて」の郁子に対して「ませた」女の子の役で、仲間を明るく引っ張る一方、陸上を止めると言い出した郁子に最も過敏に反応するという触れ幅の大きい役柄でしたが、その存在感は抜きん出ていました。

また、主人公の父親役で出演した山本譲二さん(下関出身)が思いのほかいい味を出していたのも印象的です。今では絶滅した「流しの歌手」役はぴったりだったし、最初はただの憎まれ役かと思いきや、それでも郁子にとってはかけがえのない父親であるという描写は当時の「家族像」をとてもうまく表現していたと思います。残念ながら現代の家族の絆ってあの時代より確実に薄っぺらなものになっているような気がします。

関連記事:三本木農業高校、馬術部(2010-06-19)
夕凪の街 桜の国(2010-01-14)

総合評価 
 物語 ★★★
 配役 ★★★☆☆
 演出 ★★★★
 映像 ★★★☆☆
 音楽 
★★★★


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コメント 4

あやの

こんにちは。
突然、失礼かなとは思いましたが、私もこの作品を観たことがあり、
好きだったのでコメントを書かせていただきました。
青春時代の淡い気持ちが胸によみがるようで、少し恥ずかしく、でも決して嫌な意味ではなく、とても温かい気持ちで観ることの出来た作品だと思います。
やはり忘れられないのが、全員がイルカの『なごり雪』を歌うシーン。
不思議と、じんわり涙が出そうになったことを覚えています。
ジャンスカさんの感想を読み、もう一度、新鮮な気持ちで観てみたくなりました。ありがとうございました。
by あやの (2009-10-11 16:45) 

ジャニスカ

あやのさん、コメントありがとうございます。
文通とか「なごり雪」を歌って絆を深める友情とか、
今とは違った「アナログ」な人とのつながりの良さを思い出させてくれる作品ですよね。
個人的には主人公が新聞配達のバイトで買ったギターをお父さんにプレゼントするシーンが大好きです。
隠れた名シーンだと思うのでぜひもう一度見てみてください。
また遊びに来てください!


by ジャニスカ (2009-10-11 20:38) 

めい

ジャニスカさん、ご無沙汰しております。
今回もジャニスカさんのお薦めを受け、やっと「チルソクの夏」を観ました。

アンくんと郁子の恋、そのお互いのまっすぐな気持ちに心が洗われました。
何度も出てくる郁子の新聞配達の姿は凛としていてそれだけで応援したくなります。お父さんにギターをプレゼントするところは郁子の成長も感じます。人を好きになると人は変わるなあ、とても素敵に。そのことがとても観ている私の気持ちを温かくします。

1977年の下関が舞台で、当時は戦後32年でした。それから36年が過ぎようとしているのですね。
変わらぬもの、変わったもの、変えたくないもの、変えたいもの、時代を描いてくださっているからこそ、今観ても自分の心に響くのだと思います。
七夕の前に観れてよかったと思います。
有難うございました。

by めい (2013-07-02 23:31) 

ジャニスカ

めいさん、どうもお久しぶりです。またコメントいただけて嬉しいです。

この映画を観ると時代とともに一番変わったものは「家族像」ではないかと感じます。「家族」って永遠のテーマですけど、私はこの時代の家族像ってとても日本人らしくて理想的なんじゃないかと思っています。
「家族ゲーム」というドラマの中で「何も言わなくても分かり合えるのが家族」という結論ありきで一つ屋根の下で生活している家族が登場しましたけど、その結論とはこの映画が描いている時代の家族の事を指しているんだと思います。そう考えると、こうやって映画の中に理想的な家族像が描かれているというのはとても重要なことですよね。家族のつながりがどうやって生まれるかが描かれている。佐々部清監督が描く「家族」はいつも魅力的です。

そういえば七夕モチーフの映画やドラマって最近見なくなりましたね。
昔、『7月7日、晴れ』という映画があったんですけど、ご存知ですか?
高校生の頃に観て、すごい衝撃を受けた映画です。今週テレビ放送される「耳をすませば」などと並んで映画やドラマを見る時に潜在的に意識するような、ひとつのスタンダードになっている映画です。
DVD出てるのかなぁ。七夕の時節、こちらもオススメです。またコメントお待ちしています。。。

by ジャニスカ (2013-07-03 23:38) 

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